GIGAスクール構想の第2期が本格始動し、2025〜2026年度にかけて全国で約800万台の端末更新が進んでいます。ハードの整備は着実に前進しました。しかし、文科省の発表を読み解くと、見えてくるのは「整備の格差」から「活用の格差」への課題シフトです。
端末が子どもの鞄に入っている家庭もあれば、学校の充電保管庫に眠ったままの家庭もある。同じ1人1台でも、学びに活きているかどうかは驚くほど違います。今回は、文科省調査やMM総研のデータをもとに、この「活用格差」の構造を整理し、家庭でできるサポートを考えます。
端末の持ち帰り率──「毎日」は小学校で32.6%にとどまる
文科省が公表した調査によると、GIGAスクール端末を毎日持ち帰らせている学校の割合は、小学校で32.6%、中学校で41.9%です。週に数回を含めても半数以下という状況が続いています。
私は以前、小学校プログラミング教育の学校間格差を取材した際、格差の根本原因が「制度の有無」ではなく「運用のばらつき」にあることを痛感しました。GIGAスクールの端末活用でも、まったく同じ構造が再現されています。端末は全国に行き渡ったのに、「使い方」の設計は各学校・各自治体に委ねられているのです。
自治体間で広がる「用途格差」──7種類以上 vs 1〜2種類
MM総研が全国1,741教育委員会を対象に実施した調査(2023年11月〜2024年1月、有効回答1,101件)では、端末の活用状況に明確な二極化が見られました。
- 7種類以上の用途で活用している自治体:44%(前回調査から31ポイント増)
- 1〜2種類のみで活用している自治体:24%
7種類以上の自治体では、調べ学習・ドリル・発表資料作成に加え、協働編集やポートフォリオ蓄積まで進んでいます。一方、1〜2種類の自治体はドリルアプリの利用にとどまり、端末が「高価なプリント配布機」になっているケースも報告されています。
活用格差が生まれる3つの構造的原因
1. 教員のICT活用指導力の差
文科省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」(令和5年度)によれば、ICTを活用して指導できると回答した教員の割合は全国平均で改善傾向にあるものの、都道府県別では最大20ポイント以上の開きがあります。端末があっても、授業に組み込める教員が少なければ活用は進みません。
2. 学校・自治体の運用方針のばらつき
持ち帰りの可否、フィルタリングの強度、アプリのインストール権限など、運用ルールは自治体ごとに大きく異なります。「破損・紛失時の弁償ルールが厳しすぎて持ち帰りを躊躇する」という保護者の声も少なくありません。朝6時に文科省のリリースを確認する日課の中でも、こうした運用面のQ&Aが増えていることを実感しています。
3. 家庭のデジタル環境・リテラシーの差
Wi-Fi環境が整っていない家庭、保護者がICTに不慣れな家庭では、端末を持ち帰っても活用のハードルが高くなります。文科省はモバイルルーターの貸出支援も行っていますが、制度の認知度は低いのが実情です。
ICT活用の自信と学力には相関がある
2025年7月に公表された「令和7年度 全国学力・学習状況調査」の結果では、ICT機器を活用する自信のある児童生徒ほど、各教科の正答率・スコアが高い傾向が確認されています。
これは「ICTを使えば成績が上がる」という単純な因果関係ではなく、端末を道具として使いこなす過程で育まれる情報を構造的に整理する力が、教科横断的に効いていると考えるのが妥当です。学習指導要領の本文には、「情報活用能力」を学習の基盤となる資質・能力と位置づけており、端末活用はその実践の場として設計されています。
2026年度はデジタル教科書元年──英語・算数が対象に
2026年度からは、学習者用デジタル教科書の導入が拡大します。対象は小学校5〜6年の算数・英語、中学校1〜3年の数学・英語です。文科省は2027年の法改正施行を見据え、紙・デジタル・ハイブリッドの3形態から各教育委員会が選択する方式を想定しています。
英語のデジタル教科書ではネイティブ音声の再生やスピーキング練習機能が使えるようになり、算数・数学では図形の操作やシミュレーションが可能になります。これらの機能は、端末を日常的に使い慣れている子どもほどスムーズに活かせます。つまり、今の活用格差が、来年度以降の教科書活用格差に直結するのです。
家庭で端末を「学びの道具」に変える5つの工夫
工夫1:持ち帰りルールを学校に確認する
まず、お子さんの学校の持ち帰りルールを正確に把握してください。「持ち帰り不可」だと思っていたら、実は「申請すれば可能」だったというケースは珍しくありません。学校便りや学校Webサイト、個人面談の機会を活用しましょう。
工夫2:端末で「調べて→まとめる」習慣をつくる
ドリルアプリだけでなく、日常の疑問を端末で調べ、スライドやドキュメントにまとめる練習を取り入れましょう。「旅行先の天気を調べてプレゼンする」「夕食のレシピを検索して手順を整理する」など、生活に根ざしたテーマが定着しやすいです。
工夫3:タイピング練習を1日10分の習慣にする
端末活用の基礎体力はタイピングです。文科省の調査でも、タイピング速度と端末活用の幅に相関が見られています。無料のタイピング練習サイトで1日10分、3ヶ月続ければ大きな差になります。
工夫4:フィルタリングの範囲を親子で確認する
学校端末のフィルタリングは自治体によって強度が異なります。「YouTubeが一律ブロック」の設定もあれば、「教育チャンネルのみ許可」もあります。制限の内容を親子で確認し、「学校では見られないけど家では調べたい」ときの代替手段を一緒に考えることが大切です。
工夫5:「デジタルと紙」の使い分けを一緒に決める
端末は万能ではありません。暗記や計算練習は紙のドリルが効率的な場面もあります。「調べ物・まとめ・プレゼンは端末」「漢字・計算ドリルは紙」など、子どもと一緒にルールを決めることで、道具の選び方そのものが学びになります。
よくある質問(FAQ)
Q1. GIGAスクール端末は家庭のWi-Fiがないと使えませんか?
オフラインで使えるアプリも一部ありますが、クラウド型の学習ツールはWi-Fiが必要です。Wi-Fi環境がない家庭向けに、自治体がモバイルルーターを無償貸出している場合があります。学校または教育委員会に相談してください。
Q2. 端末を壊したら弁償しなければなりませんか?
多くの自治体では、通常使用での故障は公費負担としています。ただし、故意や重大な過失の場合は一部負担を求めるケースもあります。具体的なルールは自治体ごとに異なるため、入学時の配布資料や学校Webサイトで確認しましょう。
Q3. 2026年度のデジタル教科書は全員が使うのですか?
文科省は紙・デジタル・ハイブリッドの3形態から各教育委員会が選択する方式を想定しており、一律デジタル化ではありません。お子さんの自治体がどの方式を採用するかは、教育委員会のWebサイトや学校からの通知で確認できます。
Q4. 学校で端末をあまり使っていないようですが、親から学校に要望を出してもいいですか?
PTA総会や学校評議員会、個人面談は要望を伝える正当な機会です。「端末の活用状況を教えてほしい」という情報開示の依頼から始めると、建設的な対話につながりやすいです。
Q5. 子どもが端末でゲームや動画ばかり見ていて困っています。
学校端末にはフィルタリングが設定されていますが、完全ではありません。「端末を使う場所はリビング」「利用後は充電ステーションに戻す」など、物理的なルールが最も効果的です。禁止ではなく、使い方を一緒に考える姿勢が重要です。
参考文献
- 文部科学省「GIGAスクール構想の実現に向けた整備・利活用等に関する状況について」(https://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_00921.html)
- MM総研「GIGAスクール端末の利用進むが自治体間"用途格差"広がる」2024年調査(https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=614)
- 文部科学省「令和5年度 学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00062.html)
- 文部科学省「学習者用デジタル教科書について」(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/seido/1407731.htm)
- MM総研「GIGAスクール端末更新でOSシェアに大きな変化」2025年調査(https://www.m2ri.jp/release/detail.html?id=686)






