6月に入ると、コンサルに来る家庭の相談内容が一気に「夏休みの使い方」に変わります。特に多いのが、「算数の苦手単元をどうにかしたい」という声です。

18年で2000名以上を指導してきた経験から断言しますが、算数の苦手克服で最も効率が良いのは夏休みです。学校がない40日間は、塾のカリキュラムに追われずに「穴」を埋める唯一のまとまった時間だからです。

ただし、志望校選定の段階で勝負は決まっている、と私はいつも伝えています。苦手単元の克服も同じで、「どの単元を」「どの順番で」「どのレベルまで」やるかの設計が、夏の成果の8割を決めます。闇雲に問題集を増やしても意味はありません。

算数の3大苦手単元──割合・速さ・図形のどこでつまずくか

中学受験の算数で子どもがつまずく単元には明確な傾向があります。模試の正答率データや18年分の指導記録を分析すると、苦手単元は大きく3つに集約されます。

1. 割合(比・濃度・損益算を含む)

割合は算数の「背骨」です。速さも図形も、上位レベルになると割合の理解が前提になります。つまずきのパターンは主に2つあります。

  • 「もとにする量」と「比べる量」の区別がつかない──問題文を読んで立式できない子の7割がここで止まっています
  • 比の変換操作ができない──「3:5を15:25に変換する」といった操作が感覚的に身についていない

2. 速さ(旅人算・通過算・流水算)

速さの問題で手が止まる子を分析すると、公式そのものが分かっていないケースは実は少数派です。多くは「状況を図に整理する力」が不足しています。ダイヤグラム(進行グラフ)を書く習慣がない子は、問題が2者以上になった瞬間にフリーズします。

3. 図形(面積・体積・展開図・回転体)

図形は「見える子」と「見えない子」の差が激しい分野です。ただし、これは才能ではなく補助線を引く「手順」を知っているかどうかの差です。補助線のパターンは実はそこまで多くなく、頻出パターンを10種類ほど押さえれば正答率は大幅に改善します。

夏休みに苦手単元を克服する5ステップ

以下の5ステップは、私がコンサルで実際に提案している方法です。ポイントは「量を増やす」のではなく「穴の特定→集中投下」の設計にあります。

ステップ1:模試3回分の失点を「3分類」する(6月中)

直近の模試3回分の算数の間違いを、以下の3つに分類してください。

  1. 計算ミス──立式はできているが計算で落とした問題
  2. 立式不能──何を求めればいいか分からなかった問題
  3. 途中停止──途中までは書けたが最後まで到達しなかった問題

この分類をするだけで、克服すべき単元が3〜4個に絞れます。偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、最優先の単元が変わることも少なくありません。立式不能が最も深刻で、ここから手をつけるべきです。

ステップ2:優先単元を2つに絞る(7月第1週)

分類の結果、立式不能が集中している単元を最大2つ選びます。夏休みの40日で3単元以上を同時に克服しようとすると、どれも中途半端に終わります。

私の経験では、小5なら「割合」と「速さ」、小6なら「志望校で頻出の単元」と「正答率50%以上なのに落としている単元」を選ぶのが最も効果的です。

ステップ3:1日の学習を「10分×3ブロック」で設計する(7月第2週〜)

苦手単元の学習時間は、1日30分で十分です。ただし、漫然と30分机に向かうのではなく、10分×3ブロックに分割します。

  • ブロック1(10分):前日の復習──昨日やった問題を1問だけ解き直す
  • ブロック2(10分):新しい問題を1〜2問──解けなくても5分で切り上げ、解説を読む
  • ブロック3(10分):説明タイム──解いた問題を親に口頭で説明する

特にブロック3の「説明タイム」が重要です。子どもが説明できない問題は、理解できていないのではなく「暗記で解いている」状態です。以前コンサルで、小5の夏にこの3ブロック制を導入した家庭がありました。算数の偏差値が4年まで得意だったのに5年で急落していたケースでしたが、量を増やさず説明タイムを導入しただけで、9月模試で偏差値が5ポイント回復しました。成績急落時に最初にやるべきは量の追加ではなく穴の特定だと再確認した事例です。

ステップ4:夏期講習は「引き算」で受ける(7月下旬〜8月)

塾の夏期講習を全コマ受講するのは推奨しません。講師時代のデータでは、全コマ+全オプション受講生の約4割が9月模試で偏差値が2ポイント以上下落していました。原因は消化不良です。

苦手単元の克服を夏の最優先課題にするなら、講習の中で「苦手単元に直結するコマ」だけを残し、それ以外を削って復習時間に充てる判断が必要です。親が動く範囲を最初に決めるという意味では、塾との相談を7月上旬に済ませておくことが親の役割です。

ステップ5:8月最終週に「確認テスト」を自作する(8月下旬)

夏の成果を測るのに9月の模試を待つ必要はありません。8月最終週に、以下の手順で確認テストを自作してください。

  1. 夏に取り組んだ単元から、塾テキストの基本問題を5問選ぶ
  2. 制限時間20分で解かせる
  3. 4問以上正解なら基礎は定着。3問以下なら9月以降も継続

このテストの目的は「できるようになった実感」を子どもに与えることです。9月模試まで成果が見えないと、子どものモチベーションが夏の終わりに切れてしまいます。

親の関与範囲──「やること」と「やらないこと」を明確にする

算数の苦手克服で親ができることは、大きく3つに限定されます。

  • やること1:ステップ1の失点分類を一緒にやる(分類作業は子どもだけでは難しい)
  • やること2:ブロック3の説明タイムに5分だけ付き合う(添削や教えることは不要)
  • やること3:塾との削減相談を代行する(子どもからは言い出しにくい)

やらないこと:問題の解き方を教える、正答数を毎日チェックする、「今日は何問やったの?」と聞く。これらはすべて逆効果です。朝5時に起きて過去問分析をするのは私の仕事であって、親の仕事ではありません。親の役割は「環境を整えて黙って見守ること」に尽きます。

単元別:夏に使うべき教材の選び方

教材選びで最も重要なのは「同時に走らせる教材を3冊以内に抑える」ことです。以前コンサルに来た小6の家庭は、市販問題集が12冊以上あり、どれも1周目の途中で止まっていました。志望校の出題マップを作成して3冊に絞ったところ、1冊あたりの完成度が劇的に上がり、最終的に第一志望に合格しました。

割合が苦手な場合

塾テキストの「割合」の基本例題に戻ることが最優先です。市販問題集を追加する前に、塾テキストの基本例題を「なぜそうなるか」を説明できるレベルまで仕上げてください。

速さが苦手な場合

ダイヤグラム(進行グラフ)を毎回書く習慣をつけることが最重要です。速さの問題は「図を書けば解ける」ケースが大半です。最初は線分図でも構いません。

図形が苦手な場合

補助線パターンの暗記が有効です。等積変形・相似の利用・回転移動の3パターンを押さえれば、入試頻出の図形問題の6〜7割はカバーできます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 算数の苦手克服は小5の夏と小6の夏、どちらが効果的ですか?

小5の夏のほうが効果は大きいです。小5のカリキュラムは中学受験の算数で入試に出る主要単元のほぼすべてを扱うため、この時期の穴を放置すると小6で連鎖的に崩れます。ただし小6の夏でも、単元を2つに絞れば十分間に合います。

Q2. 塾の夏期講習を削ると、周りとの差がつきませんか?

「全コマ受講している子のほうが成績が上がる」というデータは、少なくとも私の18年の指導経験にはありません。むしろ講座を戦略的に絞った生徒群のほうが9月偏差値の下落幅が小さいというデータがあります。差がつくのは授業時間ではなく復習の質です。

Q3. 算数が苦手な子に個別指導や家庭教師は必要ですか?

「立式不能」が5割以上の場合は、集団授業だけでは立て直しが難しいケースがあります。ただし、まずはステップ1の失点分類を行い、本当に個別の指導が必要な深刻度かを確認してください。計算ミスや途中停止が主因なら、家庭学習の設計変更で改善できることが多いです。

Q4. 図形のセンスがない子は、どうすれば伸びますか?

「図形のセンス」という言葉は誤解を生みやすいのですが、入試に必要なのはセンスではなく「手順の引き出し」です。補助線パターン10種類を手順として覚えれば、大半の問題に対応できます。視覚的に捉えるのが苦手な子は、実際に紙を切ったり折ったりする体験を挟むと理解が進みます。

Q5. 夏休みの算数学習で、親が絶対にやってはいけないことは何ですか?

「今日は何問解いた?」と問題数で進捗を管理することです。これをやると子どもは「量をこなすこと」が目的になり、理解の浅い状態で先に進む習慣がつきます。管理すべきは問題数ではなく「説明できるかどうか」です。

参考文献