保護者面談でよく出るのが「動画を見せないと家事ができない」「スマホに頼る自分はダメな親では」という相談です。年々増えていて、ここ数年は面談のたびに必ず1〜2人はこの話題が出ます。

先に結論を言わせてください。動画やスマホを使うこと自体は、悪いことではありません。問題は「いつ・どのくらい・どんなふうに」使うか。15年間、0歳児クラスから5歳児クラスまで担当してきた中で、私が気にしているのは総量(トータル何時間見たか)よりも「時間帯」と「見方」のほうです。

スクリーンタイムが長い子に共通する3つのサイン

園で見ている限り、スクリーンタイムが長めの子には共通する傾向があります。15年間の現場観察をもとに、3つのサインとして整理しました。

サイン1:朝の切り替えが遅い

登園後、しばらくぼんやりしている子がいます。声をかけても反応が薄く、朝の活動に入るまでに時間がかかる。こうした子に家庭の様子を聞くと、「朝起きてすぐ動画を見せている」というケースが多いのです。

朝の画面視聴は、脳が「受動モード」のまま登園することになります。園に着いてから「能動モード」に切り替わるまでに20〜30分かかる子もいて、その間に朝の活動の大事な導入部分を逃してしまいます。

サイン2:一人遊びのバリエーションが狭い

自由遊びの時間に「何して遊ぼう」と自分で遊びを組み立てられない子がいます。ブロックを積んでみるけどすぐ飽きる、砂場に行ってもすぐ戻ってくる。遊びの「持続」と「展開」が苦手な印象です。

動画は次々と刺激が切り替わるので、子どもが自分でペースを作る必要がありません。その結果、「自分で遊びを発展させる力」が育ちにくくなっている可能性があります。これは園で見ている限りの実感ですが、2025年11月に福井大学が発表した約1万人規模の縦断研究でも、スクリーンタイムの長さと注意力の関連が指摘されています。

サイン3:就寝リズムが安定しない

保護者面談で「寝る前にどう過ごしていますか?」と聞くと、就寝リズムが不安定な子の多くが「寝る直前まで動画を見ている」と答えます。画面のブルーライトが睡眠ホルモン(メラトニン)の分泌を抑え、入眠が遅れるのです。

園では午睡の入りにも影響が見えます。夜の入眠が遅い子は午前中にぐずりやすく、午睡に入るタイミングもずれやすい。生活リズム全体が「夜型」に引っ張られる悪循環が起きています。

「総量管理」より「時間帯管理」が家庭で定着しやすい

WHOの2019年ガイドラインでは、2歳未満はスクリーンタイム非推奨、2〜4歳は1日1時間未満とされています。でも、正直に言うと「1日1時間以内」を毎日きっちり守れる家庭は少数派です。

私が保護者面談でお伝えしているのは、「総量を減らそう」ではなく「2つの時間帯だけ画面をオフにしましょう」という提案です。

  • 朝の時間帯:起きてから登園(または朝の活動開始)まで
  • 就寝前の時間帯:寝る1時間前から

この2つの時間帯だけ守れば、日中に動画を見ること自体はそこまで問題になりません。朝は脳の切り替えを、夜は入眠の質を守る──この2点を押さえるだけで、子どもの生活リズムは目に見えて安定します。

家庭で今日から始められる3つのルール

ルール1:朝と寝る前の「画面オフタイム」を決める

「朝ごはんの間はテレビをつけない」「お風呂のあとは画面を見ない」など、時間ではなく生活動作とセットにすると子どもにも伝わりやすくなります。うちの息子が小さかった頃も、朝は「行ってきますのぎゅー」をした後はテレビを消すルーティンにしていました。

ルール2:「一緒に見る時間」を作る

同じ動画でも、子どもが一人で見る「受動的視聴」と、親が隣で「あ、ワンワンだね」と声をかけながら見る「対話的視聴」では、語彙の発達への影響が異なります。一緒に見る時間が1日10分でもあると、動画が「一方通行のインプット」から「やりとりのきっかけ」に変わります。

ルール3:終わりの合図を事前予告する

「あと1本で終わりだよ」「この歌が終わったらおしまいね」と、終了の見通しを事前に伝えることで、急に取り上げられるストレスが減ります。イヤイヤ期の子でも、事前予告があると切り替えがスムーズになるケースが多いです。

この3つのルール、完璧にやろうとしなくて大丈夫です。10回のうち6〜7回できていれば十分。保護者面談でよく出るのが「ルールを決めたのに守れなかった日に自分を責めてしまう」という声ですが、できなかった日は忘れて、翌日また始めればいいんです。

動画の代わりは「特別な遊び」じゃなくていい

「動画を見せないなら何をさせればいいですか?」と聞かれることもあります。答えは、日常の家事の共同作業で十分です。

洗濯物を「はい、どうぞ」と手渡す。野菜を一緒に洗う。お米を研ぐ。2歳でもできる「お手伝い」は、手指を使い、やりとりが生まれ、達成感もある。動画の代わりとして、もっとも現実的で効果の高い選択肢です。

よくある質問(FAQ)

Q1. スクリーンタイムは1日何時間までが目安ですか?

WHOの2019年ガイドラインでは、2歳未満は推奨せず、2〜4歳は1日1時間未満としています。ただし、保護者面談でお伝えしているのは「総量管理より時間帯管理」です。朝と就寝前の画面オフを守ることが、家庭では最も定着しやすい方法です。

Q2. 教育系の動画やアプリなら長時間見せても大丈夫ですか?

内容が教育的であっても、「受動的に見るだけ」の視聴では効果は限定的です。大人が隣で声をかけながら一緒に見る「対話的視聴」であれば、言葉のやりとりが生まれるので学びにつながります。

Q3. テレビをつけっぱなしにしているのですが、子どもが見ていなければ問題ないですか?

「背景テレビ」と呼ばれる状態ですが、日本小児科医会の提言でも、テレビのつけっぱなしは子どもの集中を妨げる可能性があるとされています。食事中や遊びの時間は消すことをおすすめします。

Q4. 上の子のゲームやタブレットを下の赤ちゃんが見てしまいます。どうすればいいですか?

きょうだいがいる家庭では完全に遮断するのは現実的ではありません。上の子のスクリーンタイムを赤ちゃんの午睡中に設定するなど、生活リズムのズレを利用するのが一つの工夫です。

Q5. 3つのサインに当てはまったら発達に問題がありますか?

3つのサインはあくまで「生活習慣の見直しのきっかけ」です。当てはまるからといって発達の問題があるわけではありません。まずは朝と就寝前の画面オフから始めてみて、2〜3週間で変化が見られなければ、かかりつけの小児科医や園の担任に相談してみてください。

参考文献

  • WHO「Guidelines on physical activity, sedentary behaviour and sleep for children under 5 years of age」(2019年)
  • 福井大学子どものこころの発達研究センター「子供のスクリーンタイムとADHD症状、脳構造の関係を解明」(2025年11月)
  • 日本小児科医会「子どもとメディア」の問題に対する提言(2024年改訂版)
  • こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン」関連調査研究(2025年)