「イヤイヤ期、もう限界……いつ終わるの?」
保護者面談でよく出るのが、まさにこの言葉です。何を言っても「イヤ!」、着替えもイヤ、ごはんもイヤ、出かけるのもイヤ。毎日繰り返されると、終わりが見えない暗闘のように感じてしまいますよね。
でも、園で見ている限り、イヤイヤ期には「始まり」と「ピーク」と「変化」があります。そして大事なのは、「イヤ」の中身は半年ごとにまったく違うということ。同じ「イヤ!」でも、1歳半の「イヤ」と3歳の「イヤ」では背景にある発達課題が異なります。
この記事では、認可保育園で15年・0歳児クラスから5歳児クラスまで全年齢を担当してきた経験から、1歳半〜3歳半の「イヤ」の変化を半年刻みで整理します。「うちの子は今どの段階にいるのか」がわかると、終わりの見通しが立ち、毎日の対応にも余裕が生まれます。
そもそもイヤイヤ期とは何か──「反抗」ではなく「自我の練習」
イヤイヤ期は、発達心理学では「第一次反抗期」と呼ばれますが、実際に子どもたちを見ていると「反抗」という言葉はしっくりきません。子どもは親に逆らいたいのではなく、「自分で決めたい」「自分でやりたい」という自我が芽生えたのに、それを表現する言葉や身体能力が追いついていないのです。
厚生労働省の「保育所保育指針解説」(平成30年)でも、1歳以上3歳未満の発達について「自我が芽生え、自分の意思や欲求を強く主張するようになる」と記されています。つまりイヤイヤは問題行動ではなく、健全な発達のサインです。
1歳半〜3歳半の「イヤ」の変化を半年ごとに見る
【1歳半〜2歳前】芽生え期──「やりたい」と「できない」のギャップ
自分でスプーンを持ちたい、自分で靴を履きたい。でも手先がうまく動かない。そのフラストレーションが泣きやかんしゃくとして表に出る時期です。言葉がまだ十分でないため、「イヤ」の一言にすべての感情が詰め込まれています。
この時期の関わり方:「やりたかったんだね」と気持ちを代弁し、手を出しすぎず見守る。できた部分を実況中継する(「靴、片方入ったね!」)。
【2歳前〜2歳半】ピーク前半──「自分で!」の爆発
言葉が少しずつ増え、「ジブンデ!」が口癖に。しかしやりたいことの難易度と実力が合わないため、かんしゃくの頻度と強度が最も高くなる段階です。
私が担当した2歳児クラスでは、20人中18人がこの時期に1日1回以上の「イヤ」を発していました。つまり「うちの子だけ激しい」と感じていても、クラスの9割が同じ状態です。
この時期の関わり方:選択肢を2つ出す(「赤い靴と青い靴、どっちにする?」)。自分で決めた感覚を持たせると、かんしゃくが収まりやすくなります。
【2歳半〜3歳前】ピーク後半──「イヤ」に理由が生まれる
2語文・3語文が出始め、「イヤ」の裏に理由が見えるようになるのがこの段階です。「だって○○だから」「こっちがいい」など、子ども自身が自分の気持ちを言語化し始めます。
ただし、表現力が追いつかず言葉にならない場面ではまだかんしゃくが出ます。園で見ていると、この時期のかんしゃくは「言いたいことがあるのに伝わらない」もどかしさがほとんどです。
この時期の関わり方:「○○が嫌だったの?それとも△△がしたかった?」と言葉を貸してあげる。正解を当てなくても、「気持ちを聞こうとしている」姿勢が子どもの安心につながります。
【3歳〜3歳半】移行期──「交渉」ができるようになる
3歳を過ぎると、語彙が増え、「あとでやる」「これが終わったらね」など時間の見通しや条件交渉ができるようになります。かんしゃくの頻度は目に見えて減り、代わりに「なんで?」「どうして?」の質問攻めが始まります。
保護者面談で「最近イヤイヤがなくなった」と報告される家庭が増えるのもこの時期ですが、3歳児クラス20人を見ていると、完全に落ち着くまでの幅は3歳前から3歳半ごろまで半年近い個人差があります。
この時期の関わり方:「じゃあどうしたい?」と本人に聞く。交渉が成立した経験が、自己コントロールの土台になります。
「いつ終わるか」より大切な2つの視点
1. 「イヤ」の質が変わっていれば、それは前に進んでいる証拠
1歳半の「全身で泣く」から、2歳の「ジブンデ!」、3歳の「だってこうしたいから」へ。表現が変わっているなら、着実に発達しているということです。保護者面談でよく出るのが「うちの子のイヤイヤ、全然変わらないんです」という言葉ですが、よく聞くと半年前とは「イヤ」の中身が違っていることがほとんどです。
2. かんしゃくへの対応は「受け止め→代替行動」の2ステップ
どの年齢でも共通するのは、まず気持ちを受け止めてから、代わりの行動を見せるという順番です。制止が先になるとかんしゃくがエスカレートしやすいのは、1歳半でも3歳でも同じです。
以前、私自身の息子が2歳のころ、公園で「お友達と遊んでおいで」と促したことがありました。でもこれは逆効果で、翌日から何も言わず自分が砂場で遊び始めたら、息子は自然と隣に来て、少しずつ他の子にも興味を示すようになりました。保育士でも、わが子のことになると焦って「先回り」してしまう。親自身がその場でゆったり構えることが、子どもの安心につながるのだと、自分の育児でも実感しました。
イヤイヤ期の「個人差」を受け入れるために
私が15年間で見てきた子どもたちの中には、1歳半から激しく始まり2歳半で落ち着いた子もいれば、2歳後半から始まり3歳半まで続いた子もいます。開始時期も終了時期も、子ども一人ひとり違います。
他の子と比べると見落としますが、大事なのは「うちの子の半年前と今」を比べること。半年前より少しでも言葉で気持ちを伝えられるようになっていたら、それは確実にイヤイヤ期の出口に近づいています。
よくある質問(FAQ)
Q1. イヤイヤ期がほとんどない子もいますか?
います。2歳児クラスでも20人中2〜3人は「目立ったかんしゃくがない」子がいます。ただし、自己主張が内面にこもっているケースもあるため、「イヤイヤがないから安心」とは一概に言えません。穏やかな子でも、4歳前後に自己主張が強まる場合があります。
Q2. 3歳半を過ぎてもイヤイヤが続く場合、発達に問題がありますか?
3歳半以降もかんしゃくが日常的に続く場合は、言語発達や感覚過敏など背景にある要因を確認する価値があります。まずはかかりつけの小児科や、お住まいの自治体の子育て支援センターに相談してみてください。ただし、かんしゃく=発達の問題とは限りません。
Q3. きょうだいでイヤイヤ期の激しさが全然違うのはなぜですか?
気質(生まれ持った性格傾向)が大きく影響します。同じ家庭環境で育っても、感情の表出の強さには個人差があります。園でも、きょうだいで正反対のケースはよく見かけます。育て方の問題ではありません。
Q4. イヤイヤ期に「叱ってはいけない」のですか?
危険な行動や人を傷つける行動は、短く・具体的に止めて大丈夫です。大切なのは、叱った後に「好きなのは変わらないよ」という一言を添えること。叱りっぱなしにしないことが、親子の信頼関係を守ります。
Q5. 外出先でかんしゃくが起きたとき、周囲の目が気になって対応できません
まずは安全な場所に移動し、子どもの気持ちを受け止めることに集中してください。園で見ている限り、外出先のかんしゃくで最も効果的なのは「事前の予告」です。出かける前に「今日はお菓子は買わないよ」「公園には○時まで」と伝えておくだけで、かんしゃくの頻度は減ります。10回のうち6〜7回できていれば十分です。
参考文献
- 厚生労働省「保育所保育指針解説」(平成30年2月)──1歳以上3歳未満児の発達特性と保育の配慮事項
https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/shishin-h30-bunkatsu - ベネッセ教育総合研究所「幼児期の家庭教育調査」──イヤイヤ期の開始時期と保護者の対応に関する調査データ
https://berd.benesse.jp/ - LITALICO発達ナビ「イヤイヤ期はいつから、なぜ起こる?対応や発達障害との関連」──医師監修による発達段階の解説
https://h-navi.jp/column/article/35029434





