保護者面談で繰り返し出るテーマのひとつが「きょうだいが生まれてから上の子が急に変わった」という相談です。園で見ている限り、きょうだい誕生後に何らかの行動変化が出る子はクラスの大半。変化がまったくない子のほうが少数派です。
この記事では、認可保育園で15年、0歳児クラスから5歳児クラスまで全年齢を担当してきた経験と、発達相談200件の知見をもとに、赤ちゃん返りの5つのタイプと家庭で実践できる「上の子ファースト」の3ステップを整理します。
そもそも赤ちゃん返りとは何か──「退行」ではなく「確認作業」
赤ちゃん返りというと「発達が後退した」と心配される保護者が多いのですが、保護者面談でよく出るのが「しつけが悪かったのでは」という自責の声です。でもこれは後退ではありません。子どもが「自分はまだ大切にされているか」を確認するための行動です。
保育の現場では、赤ちゃん返りは安全基地の再確認作業として捉えています。きょうだいの誕生という大きな環境変化に対して、「ここに自分の居場所があるか」を確かめているのです。この前提を持つだけで、目の前の行動への受け止め方が大きく変わります。
保育園で見てきた赤ちゃん返り5つのタイプ
15年間で担当したクラスの中で、きょうだい誕生後に見られた行動変化を5つのタイプに分類しました。実際には複数のタイプが重なることも多く、日によって出方が変わります。
タイプ1:甘え密着型
「抱っこして」「一緒にいて」が急増するタイプ。登園時に離れられない、保育士のそばを離れない、お迎え時に母親から離れないといった行動が目立ちます。最も多く見られるパターンで、きょうだい誕生後の子の約6割がこのタイプを示します。
タイプ2:できていたことの逆戻り型
トイレで排泄できていたのにおもらしが増える、自分で食べていたのに「食べさせて」と言う、着替えを手伝ってほしがるなど。身体の機能が退行したわけではなく、「赤ちゃんと同じことをすれば同じように世話してもらえる」という確認です。
タイプ3:赤ちゃんへの攻撃・拒否型
赤ちゃんを押す・つねる、「赤ちゃんいらない」と言うなど。保護者が最も動揺するタイプですが、言葉で感情を表現しきれない年齢の子が不安を行動で出している状態です。叱責ではなく「悲しかったんだね」と感情の翻訳をすることが重要です。
タイプ4:赤ちゃんのまね型
赤ちゃん言葉に戻る、ハイハイで移動する、哺乳瓶を使いたがるなど。「赤ちゃんの行動=親の注目を集める行動」と学習した結果です。このタイプは2〜3歳に多く見られ、数週間で自然に収まるケースがほとんどです。
タイプ5:過剰なお兄さん・お姉さん型
見落としやすいのがこのタイプです。「赤ちゃんのオムツ持ってきてあげる」「泣いてるよ、ミルクあげて」と過剰にお世話をしたがります。一見しっかりしているように見えますが、他の子と比べると見落としますが、本人の中に不安を抱え込んでいることがあります。突然崩れたように泣き出す、夜泣きが始まるなど、別の場面でストレスが出ることがあります。
クラスの中での赤ちゃん返りの「幅」
3歳児クラスで、年度中にきょうだいが生まれた子6人の行動変化を記録した結果です。
- 目立つ行動変化が1ヶ月以内に落ち着いた:1人
- 1〜3ヶ月で波がありつつ落ち着いた:2人
- 半年近く続いたが徐々に安定した:2人
- 1年近く断続的に続いた:1人
園で見ている限り、赤ちゃん返りの期間にも大きな個人差があります。「半年くらいは続くもの」と思っておくと、保護者の焦りが軽減されます。重要なのは期間の長さではなく、子どもが安心を取り戻すプロセスが進んでいるかどうかです。
「上の子ファースト」で親子が安定する3ステップ
保護者面談で共有して効果が高かったのが、以下の3ステップです。完璧にやる必要はありません。10回のうち6〜7回できていれば十分です。
ステップ1:1日5分の「上の子だけ時間」を死守する
赤ちゃんが寝ている間や、パートナーに赤ちゃんを任せられるタイミングで、上の子と1対1の時間を作ります。特別なことをする必要はなく、絵本を1冊読む、一緒にお菓子を食べる、ぎゅっとする──それだけで十分です。
私自身、息子が4歳前後の頃に毎朝玄関で5秒間のハグ「行ってきますのぎゅー」をルーティンにしていました。朝7時に出勤する生活でも、この5秒のスキンシップを日課にするだけで、息子の夕方の不安定さが明らかに減りました。きょうだいが生まれた家庭でも同じ原理が使えます。
ステップ2:「お兄ちゃんでしょ/お姉ちゃんでしょ」を封印する
この声かけは、子どもの甘えたい気持ちにフタをしてしまいます。代わりに使ってほしいのは「あなたが生まれたときも、こうやって抱っこしたんだよ」という言葉です。
「お兄ちゃんだから我慢して」ではなく、上の子も同じように大切にされてきた事実を伝えることで、きょうだいの存在を脅威ではなく日常の一部として受け入れやすくなります。
ステップ3:赤ちゃんのお世話を「一緒にやる係」にする
オムツを持ってきてもらう、ガーゼを渡してもらう、赤ちゃんに歌を歌ってもらうなど、上の子が「赤ちゃんの世話に参加する役割」を持つと、排除された感覚が薄れます。
ただし、ここで重要なのはお手伝いを強制しないことです。「やってくれたら嬉しいな」のスタンスで、やってくれたら「ありがとう、助かったよ」と伝える。やりたくないときは無理に頼まない。この加減が大切です。
園と家庭で対応をそろえるために
赤ちゃん返りが出ているとき、保育園では日中の様子を細かく記録しています。「今日は朝だけ泣いたけど、日中は友達と元気に遊んでいました」「おもらしが減ってきました」など、変化のプロセスを担任と共有することが重要です。
園での様子と家での様子が違うことはよくあります。園では頑張っている分、家で崩れるのは自然なこと。「家ではわがまま放題で困る」という相談には「園で頑張っている分、安心できる場所で感情を出しているんですね」とお伝えしています。
こんなときは専門家に相談を
赤ちゃん返りの大半は発達の自然な過程ですが、以下のサインが2週間以上続く場合は、かかりつけの小児科や地域の子育て支援センターに相談することをおすすめします。
- 食事をほとんど取らない日が続く
- 夜間の睡眠が極端に乱れて日中もぼんやりしている
- 赤ちゃんへの攻撃が繰り返され、目が離せない状態が続く
- 園でも家でも笑顔がほとんど見られなくなった
よくある質問(FAQ)
Q1. 赤ちゃん返りはいつ頃から始まりますか?
A. きょうだいの誕生前後が最も多いですが、妊娠中から始まるケースもあります。母親のお腹が大きくなり、生活リズムが変わり始めた時点で不安を感じる子もいます。2〜3歳が最も多い年齢帯ですが、4〜5歳でも見られます。
Q2. 上の子の赤ちゃん返りを「無視」してもいいですか?
A. 無視はおすすめしません。赤ちゃん返りは「自分を見てほしい」というサインです。無視し続けると、より激しい行動に出るか、逆に諦めて感情を出さなくなるリスクがあります。忙しいときは「今は赤ちゃんのお世話が終わったらね」と見通しを伝えるだけでも違います。
Q3. 一人っ子でも赤ちゃん返りは起きますか?
A. はい。引っ越し、保育園の転園、親の仕事の変化など、大きな環境変化があると一人っ子でも赤ちゃん返りに似た行動が出ることがあります。原理は同じで「安全基地の再確認作業」です。
Q4. 赤ちゃん返り中にトイレトレーニングを進めても大丈夫ですか?
A. 赤ちゃん返りの最中にトイレトレーニングを新たに始めることはおすすめしません。すでに進めていた場合も、一度ペースを落として「おもらししても大丈夫だよ」と安心感を優先しましょう。心が安定すれば、身体の準備が整っている子はすぐに戻ります。
Q5. パパ・ママで対応を分担するコツはありますか?
A. 「上の子担当」と「赤ちゃん担当」を固定せず、日によって入れ替えるのが理想です。特に上の子が母親に強く甘えている場合、父親が「上の子だけ時間」を担当すると、母子の密着を和らげつつ父子の関係も深まります。
参考文献
- 厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」── 乳幼児の睡眠と情緒安定に関する指針(mhlw.go.jp)
- 母子衛生研究会「赤ちゃんより上の子をかわいがるくらいでバランスがとれる」── きょうだい誕生後の上の子ケアの基本方針(mcfh.or.jp)
- ベネッセ教育総合研究所「赤ちゃん返りとは?対応方法や主な行動を医師が解説」── 医師監修による赤ちゃん返りの行動分類と対応(benesse.jp)
- NHKすくすく子育て「間違いだらけだった私の"赤ちゃん返り"対策」── きょうだい関係と赤ちゃん返りの事例集(sukusuku.com)






