小学生の英検受験者が年間54万人を突破し、中学受験で英検を優遇する学校は首都圏だけで140校以上に達した。2025年度には31年ぶりの新設級「準2級プラス」も登場し、英検への注目度はかつてないほど高まっている。
しかし、私が18年の塾講師経験とコンサルを通じて見てきた限り、「英検を取ったのに受験で活かせなかった」家庭は少なくない。志望校選定の段階で勝負は決まっている。これは英検にも当てはまる。加点制度があるかどうかではなく、自分の子どもの志望校で英検がどう機能するかを先に確認すべきだ。
英検優遇の「3つのタイプ」を正しく理解する
中学受験における英検優遇制度は、大きく3つに分類できる。
1. 加点型
4教科の合計点に英検取得級に応じた点数を上乗せするタイプ。例えば準2級で10〜20点、3級で5〜10点といった加点が多い。ただし加点幅が小さい学校では、英検対策に費やした時間を4教科に回したほうが得点効率が高いケースもある。
2. みなし得点型
英語科目の得点を英検取得級に応じて一定点数に置き換えるタイプ。2026年度入試では頌栄女子学院が新設した「英検英語利用入試」が注目されている。このタイプは英語入試を実施する学校に多く、実質的に英語が5科目目として機能する。
3. 出願資格型
特定の英検級を持っていないとそもそも出願できない入試区分。広尾学園のインターナショナルコースなどが代表例だ。このタイプは帰国生や英語を長期間学んできた子ども向けであり、一般的な受験生が急いで取得を目指す対象ではない。
偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、英検対策の時間対効果が高いのは「加点型で加点幅が大きい学校」を志望する場合だけだ。まずは志望校がどのタイプに該当するかを調べることが第一歩になる。
英検を取るべきかを判断する3つの基準
基準1:志望校の入試制度で英検がどう使われるか
英検優遇校140校以上という数字は事実だが、自分の子どもの志望校リストと照合すると対象は2〜3校に絞られることが多い。しかも加点型の加点幅は5〜20点程度で、4教科の合計が300〜400点満点であることを考えると、算数1問分の配点に相当するかどうかという水準だ。
私のコンサルでは、志望校5校の過去問5年分の出題マップを作成し、科目別・単元別の配点比重を分析する。その分析の中で英検加点のインパクトを定量的に評価する。「英検3級で10点加算」が「算数の苦手単元を1つ潰して15点伸ばす」より優先される状況は、実はかなり限定的だ。
基準2:子どもの英語への自然な関心があるか
英検対策は最低でも週2〜3時間の学習時間を必要とする。小4〜小5で4教科の学習負荷が上がる時期に英語を追加すると、全体の学習密度が下がるリスクがある。
ただし、子どもが英語に自然な興味を持っている場合は話が変わる。以前、小6の12月までサッカーを続けて御三家に合格した生徒がいた。本人が自分で「続けたい」と決めたことがモチベーション維持の鍵だった。英検も同様で、親が「受験に有利だから」と押し付けるのではなく、子ども自身が英語を楽しんでいるかどうかが継続の分かれ目になる。
基準3:4教科の学習時間とのトレードオフを数字で把握しているか
英検3級の合格に必要な学習時間は、ゼロからの場合で200〜300時間とされる。仮に週3時間を英検対策に充てると、年間で約150時間。これは算数の苦手単元を重点的に潰せるだけの時間に相当する。
親が動く範囲を最初に決める。英検対策を始めるなら「週何時間を英語に使い、その分どの教科の何を削るか」を事前に設計すること。この設計なしに英検対策を始めると、4教科の学習密度が薄まり、結果として総合得点が下がる家庭を私は何度も見てきた。
学年別の優先順位マップ
| 学年 | 英検の位置づけ | 優先すべきこと |
|---|---|---|
| 小1〜小3 | 不要(興味があれば5級を遊び感覚で) | 知的好奇心の育成、読書習慣 |
| 小4 | 英語好きなら5級→4級に挑戦可 | 4教科の基礎固め、通塾開始の判断 |
| 小5前半 | 志望校に英検優遇があれば目標級を取得 | 苦手科目の特定と集中対策 |
| 小5後半〜小6 | 英検対策は原則終了、4教科に全振り | 過去問分析、志望校別対策 |
重要なのは「小5の春までに目標級を取りきる」というスケジュール設計だ。小6に英検対策を持ち込むと、過去問分析と志望校別対策に充てるべき時間が圧迫される。朝5時に起きて過去問分析をする私の日課でも、英検と4教科の両立は小6では勧めない。
英検よりも先にやるべきこと
英検を検討する前に、以下の3つを確認してほしい。
- 志望校リストの確定度:志望校が固まっていない段階で英検対策を始めるのは、地図なしに走り出すのと同じだ
- 4教科の弱点マップ:科目別・単元別の失点パターンを分類し、優先的に潰すべき弱点が残っていないか確認する
- 家庭の可処分学習時間:塾の宿題+家庭学習+英検対策を合算して、子どもの集中力が持つ範囲に収まるかを計算する
これらが整理された上で「英検の加点が合否のボーダーラインを超える決定打になる」と判断できた場合にのみ、英検対策に踏み切ることを勧める。
よくある質問(FAQ)
Q. 英検は何級から中学受験で有利になりますか?
A. 学校により異なるが、加点対象は3級以上が多い。ただし4級から優遇する学校もある。重要なのは級のレベルではなく、志望校の入試制度で英検がどの程度の得点インパクトを持つかを個別に確認することだ。
Q. 英検対策はいつから始めるべきですか?
A. 志望校に英検優遇がある場合、小4後半〜小5前半で目標級を取得し、小5後半以降は4教科に集中するのが理想。小6から英検対策を始めるのは時間的に非効率であり勧めない。
Q. 2025年に新設された「準2級プラス」は中学受験で使えますか?
A. 2026年度入試時点では、準2級プラスを優遇対象に明記している学校はまだ限定的だ。各学校の最新の募集要項で対応状況を確認する必要がある。新設級のため、入試での扱いが定まるまで1〜2年かかる可能性が高い。
Q. 英検対策と塾の宿題を両立できますか?
A. 週の可処分学習時間から塾の宿題と復習に必要な時間を引き、残りが週2〜3時間以上あるなら両立は可能。ただし、4教科に苦手単元が残っている場合は、英検より苦手克服を優先すべきだ。
Q. 英検を持っていないと中学受験で不利になりますか?
A. 英検がないと出願できない入試区分(出願資格型)を除けば、不利にはならない。4教科型の一般入試では英検の有無は合否に影響しない。英検優遇はあくまで「あればプラス」であり、「なければマイナス」ではない。
まとめ
英検は中学受験の武器になりうるが、すべての家庭に必要なわけではない。志望校の入試制度との相性、子どもの英語への関心、4教科の学習時間とのバランス──この3つの基準で冷静に判断してほしい。受験戦略は将棋の中盤戦に似ている。一手一手の価値を正確に読み、限られた持ち時間をどこに投下するかが勝負を分ける。
参考文献
- 公益財団法人 日本英語検定協会「受験の状況」
https://www.eiken.or.jp/eiken/about/situation/ - 公益財団法人 日本英語検定協会「2025年度 変更点のお知らせ」
https://www.eiken.or.jp/eiken/info/2025/change.html - 塾シル「中学受験で英検は有利?英検優遇・加点制度の仕組みと全国対象校一覧」
https://jukushiru.com/article/post-28972/ - ESL club「中学受験で英検による試験免除や加点など優遇される学校一覧」
https://eslclub.jp/blog/juken-jr-high/






