「手を挙げれば内申が上がる」「提出物を出せば主体性の評価は大丈夫」。子どもにそう伝えてきた保護者は少なくないだろう。だが、文科省の発表を読み解くと、その前提が2030年度から根本的に変わることが見えてくる。

2025年7月4日、文部科学省は次期学習指導要領における学習評価の方針を公表した。現行の3つの観点別評価のうち「主体的に学習に取り組む態度」を成績評定の独立した観点から外す方向を正式に示したのだ。2026年度中に予定される中央教育審議会(中教審)の答申を経て、2030年度の小学校から順次実施される見込みだ。影響を受けるのは、現在幼稚園〜小学校低学年にいる子どもたちだ。

英語民間試験導入の報道が「賛成vs反対」の二項対立に終始していたとき、私は文科省の一次資料を読み込んで論点が多層的であることを確認した。今回の評価改革でも、「主体性が通知表から消える」という単純化した見出しが拡散しているが、制度の実態はより精密だ。原典を丁寧に読まなければ、家庭での誤った対応につながる。

現行の3観点評価とは何だったか

2021年度から全国の小・中・高校に導入された現行制度では、すべての教科について3つの観点でABCの段階評価を行う仕組みになっている。

  • ①知識・技能
  • ②思考・判断・表現
  • ③主体的に学習に取り組む態度

この3観点はそれぞれABCの段階評価を受け、合算されて5段階の「評定」(いわゆる通知表の「5」「4」などの数字)へとまとめられる。高校受験の内申点は、この評定を基に各都道府県が算出するため、③の「主体的態度」も内申点の計算に直接影響してきた。

学習指導要領の本文には、この3観点が「資質・能力の3本柱」——知識・技能/思考力・判断力・表現力等/学びに向かう力・人間性等——に対応する形で設計されていると書かれている。言わば教育目標を「測る物差し」として機能してきた制度だ。

何がどう変わるのか──「主体的態度」が所見欄へ移る

次期学習指導要領(案)では、③の評価方法が根本的に変わる。文部科学省の審議まとめ素案(2026年夏)によれば、変更後の構造は以下の方向で検討されている。

観点 現行(2021年〜) 改訂後(2030年度〜予定)
①知識・技能 観点別評価(ABC) 引き続き観点別評価
②思考・判断・表現 観点別評価(ABC) 引き続き観点別評価。主体性が特に顕著な場合は「A○」等と表記し評定に考慮
③主体的に学習に取り組む態度 観点別評価(ABC) 独立した観点評価を廃止。総合所見欄への記述(個人内評価)に転換

「主体性が特に顕著な場合は思考・判断・表現の評価に○を付けてA○などと表記し、評定をつける際に勘案する」(日本経済新聞2026年3月)という仕組みだ。独立した観点別評価(ABC)は消えるが、評定への影響がゼロになるわけではない。

なぜ変えるのか──「客観性の担保」が背景にある

文科省がこの改革に踏み切る背景には、主に3つの構造的な問題がある。

問題1:主観的になりやすく公平性に欠ける

「主体的態度」の評価は、授業中の発言頻度やノートの書き方、提出物の質など、教員が直接観察する行動に依拠してきた。しかし「どれだけ手を挙げたか」という可視的な指標と、本来の「学習への主体的な関わり」は必ずしも一致しない。内向的な気質でも本質的に主体的に学んでいる子が低く評価されるケースが制度的に生じやすかった。

問題2:評価根拠を説明しづらい

保護者から「なぜCなのか」と問われたとき、教員が客観的な根拠を示しにくいという問題が現場に積み上がっていた。テストの点数(①)や記述の質(②)とは異なり、「態度」の根拠は記録も残しにくく、説明責任の観点から制度的な弱さがあった。

問題3:教員の評価負担が大きい

3観点をすべての単元で記録・集計する作業は、教員にとって膨大な事務負担となっていた。学習評価の質を高めるはずの制度が、授業準備の時間を圧迫するという逆説が生じていた。

内申点への影響──テストと提出物の比重が高まる

「主体的態度」の観点別評価がなくなることで、内申点の計算構造も変わる見通しだ。現行では3観点すべてが評定(内申点)に影響していたが、改訂後は実質的に①と②の2観点が中心になる。

この改革で影響を受ける子どもは2つのパターンに分かれる。

  • 影響を受けやすい層:授業態度や発言頻度の積み重ねで「主体的態度」を稼いでいた子。定期テストの点数が十分でなくても、従来は③で評定を引き上げることができた。
  • 恩恵を受けやすい層:テスト成績が優秀でも、内向的な性格などにより「主体的態度」の評価が低かった子。知識・技能と思考力の2観点が中心になることで、より正確に学力が反映されやすくなる。

ただし、「A○」という形で主体性が評定に一定の影響を残す仕組みも設けられており、「完全に主体性は見ない」ということにはならない。具体的な運用ルールは2026年度中の中教審答申と2027〜2028年度の告示で確定する見通しだ。

「総合所見欄」が重くなる──親が読むべき場所が変わる

評価改革でもう一つ変わるのは、通知表の「総合所見欄」の比重だ。「主体的態度」の評価は、担任や各教科の教員が書く所見の文章に吸収される形になる。

現行の通知表では、多くの保護者が「ABCABC...」という記号の羅列を見て終わり、所見欄を読み飛ばす傾向がある。しかし2030年度以降は、所見欄にこそ子どもの学習への姿勢の実態が書かれる構造になる。文部科学省の設計意図としても、「数字に出ない努力を文章で丁寧に伝える」評価への転換が明示されている。

2030年前に家庭でできる3つの対応

対応1:通知表の所見欄を今から丁寧に読む

2030年度以降の変化に備えるには、今の通知表から所見欄を読み込む習慣が有効だ。現行でも所見欄には教員から見た子どもの学びへの姿勢が書かれている。「何かプラスのことが書いてあるか」という確認から、「教員が子どもの学びのどの側面を見ているか」を読み取る視点に切り替えることが第一歩になる。次の面談・懇談会では所見欄を手元に持参して、具体的に確認する習慣をつけたい。

対応2:「見せる行動」から「学習設計力」へ意識を転換する

「手を挙げる」「ノートをきれいに書く」という可視的行動で主体性をアピールする戦術は、新制度ではそのまま通用しなくなる可能性がある。次期学習指導要領では、「学びに向かう力」として学習の自己調整(計画・実行・振り返りのサイクル)が重視される方向だ。週1回「今週何を学んだか、なぜそう判断したか」を子ども自身に言語化させる会話は、この力の土台として機能する。令和8年度全国学力調査でも「学習計画の立て方が分かる」と答えた中3生が59.6%にとどまっており、自己調整力の育成は制度変更を超えた課題だ。

対応3:知識・技能と思考・判断・表現を着実に積み上げる

改訂後の評定の中心は①と②になる。定期テストの正答率、記述問題の完成度、提出物の質が、より直接的に内申点に反映される構造にシフトする。「態度でカバーできた」という余地が減るため、学力の地力を低学年から着実に積み上げる学習習慣の設計が重要性を増す。特に現在の小学3〜6年生(新制度で最初に影響を受ける世代)を持つ家庭は、中学入学前に基礎的な読み書きと思考力の土台を整えることを意識したい。

よくある質問(FAQ)

Q1. 「主体的に学習に取り組む態度」は2030年度から完全になくなるのですか?

A. 完全に消えるわけではありません。成績評定の独立した観点(ABC評価)としては廃止されますが、主体性が特に顕著な場合は思考・判断・表現の評価に「A○」などと表記して評定に一定の影響を残す仕組みや、総合所見欄での記述評価として残ります。現在は審議まとめ素案の段階であり、2026年度中の中教審答申と2027〜2028年度の告示で具体的な運用が確定します。

Q2. 今の小学生・中学生への影響はいつから出ますか?

A. 実施予定は小学校が2030年度、中学校が2031年度、高校が2032年度です。現在の小学3年生(2026年9月時点)が中学1年生になる2031年度から、中学の評価方法が変わります。現在の中学生・高校生には原則として現行制度が継続適用される見込みですが、移行措置の詳細は今後の告示で確認してください。

Q3. 「A○」とはどういう仕組みですか?内申点にどう影響しますか?

A. 思考・判断・表現の観点において、主体性が特に顕著に表れていると教員が判断した場合に「A」に「○」を付ける表記です。この「A○」は評定(5段階)を算出する際に一定程度考慮される方向ですが、具体的な加算方法は今後の評価要領で規定される予定です。現行の「主体的態度のA=評定に直接加算」という仕組みとは異なり、より限定的な形になる見通しです。

Q4. 高校受験の内申点計算はどう変わりますか?

A. 2031年度から中学校で新評価制度が実施されると、内申点の基となる評定の構造が変わります。具体的な計算方法は各都道府県の高校入試制度によって異なり、各県教育委員会が次期指導要領に対応した内申点計算の方針を発表する見通しです。子どもが中学入学を迎える前年(2030年ごろ)には、在住都道府県の教育委員会の情報を確認することを勧めます。

Q5. 所見欄が重要になるなら、「よい所見をもらうための対策」は必要ですか?

A. 「所見対策」として特定の行動を演じることよりも、教員が子どもの学びの実態を正確に把握できるよう、家庭での学習の取り組みを子どもが自分の言葉で伝えられる力を育てる方が制度の趣旨に沿っています。面談では教員に「今どんなことに取り組んでいるか」を子ども自身が話せるような準備をする方が、長期的には所見の内容に反映されやすくなります。

参考文献

  • 文部科学省「次期学習指導要領等に向けた学習評価の改善に関する基本的な考え方(審議まとめ素案)」中央教育審議会(2026年)
  • 教育新聞「主体的態度は評定に入れず 次期指導要領の学習評価で方針」(2025年7月4日)
  • 日本経済新聞「小中高の成績表、主体性は3段階評価→『○』に 評定には影響残す」(2026年3月)
  • リシード「次期学習指導要領案、授業時数・成績評価が変わる…情報活用能力が学びの基盤」(2026年9月1日)
  • 東洋経済オンライン「授業態度=成績の時代は終焉? 次期学習指導要領の新方針で"泣く生徒"と"救われる生徒"の差」(2026年)
  • 国立教育政策研究所「令和8年度全国学力・学習状況調査 分析結果」(2026年8月3日)