「高校受験は内申点が大事」と聞いて、何をすればいいかわからないまま中学に入学させてしまう家庭は少なくない。私は18年間、中学受験の塾講師として過去問分析や志望校選定に携わってきたが、独立後のコンサルでは「中学受験をしない」と決めた家庭からの相談も年々増えている。
そのとき必ず伝えるのが、内申点は中1の1学期が基準点になるということだ。中学受験でいう「志望校選定の段階で勝負は決まっている」のと同じで、高校受験の内申点も初動で差がつく。
この記事では、2021年度から全面実施された3観点評価の仕組みを構造的に分解し、教科別・観点別にどう対策すれば内申点が上がるのかをマトリクスで整理する。
内申点の基本構造──通知表の「5段階評定」はどう決まるのか
高校受験で使われる「内申点」とは、中学校の通知表に記載される9教科の5段階評定を合計したものだ。満点は9教科×5=45点。ただし都道府県によって実技4教科を2倍にする(満点65点)など計算方法が異なるため、自分の受験する都道府県のルールを必ず確認してほしい。
重要なのは、この5段階評定が3つの観点別評価の組み合わせで決まるという点だ。2021年度の学習指導要領改訂により、すべての教科で以下の3観点が統一された。
3観点評価の構造
| 観点 | 評価対象 | 主な評価材料 |
|---|---|---|
| 知識・技能 | 学習内容の理解度と技能の習得 | 定期テストの知識問題、小テスト、実技テスト |
| 思考・判断・表現 | 知識を活用して考え、表現する力 | 定期テストの応用・記述問題、レポート、発表、作品 |
| 主体的に学習に取り組む態度 | 学習の調整や粘り強さ | 提出物の質と期限遵守、振り返りシート、授業中の取り組み |
各観点がA・B・Cの3段階で評価され、その組み合わせで5段階の評定が決まる。たとえばAAA=5、AAB〜ABB=4、BBB=3といった形だ(学校ごとに基準は微妙に異なる)。
ここで気づいてほしいのは、定期テストの点数だけでは評定の3分の2しかカバーできないということ。テストで90点を取っても、提出物が雑で振り返りシートが白紙なら、「主体的に学習に取り組む態度」がBやCになり、評定は4止まりになる。
教科別・観点別の対策マトリクス──「何をすれば上がるか」を構造化する
中学受験の過去問分析では、志望校ごとに「科目×出題形式」のマトリクスを作って攻略するのが基本だ。私はこの手法を内申点対策にもそのまま応用することを勧めている。
以下に、主要5教科と実技4教科の観点別対策を整理した。
主要5教科の対策マトリクス
| 教科 | 知識・技能で点を取るコツ | 思考・判断・表現で点を取るコツ | 主体的態度でAを取るコツ |
|---|---|---|---|
| 国語 | 漢字・文法・古典の暗記を定期テスト2週間前から開始 | 記述問題で「根拠→自分の考え」の型を使う | ノートに授業の要約を自分の言葉で書く、感想文の提出を丁寧に |
| 数学 | 計算・公式の正確さ、基本問題の正答率を上げる | 途中式を書いて論理を示す、応用問題は立式の根拠を明記 | 間違えた問題の解き直しノートを提出物に反映させる |
| 英語 | 単語・文法の定着、リスニングの基礎力 | 英作文で自分の意見を3文以上で書く練習 | 音読の記録、自主学習ノートでの単語練習を可視化 |
| 理科 | 用語・公式の暗記、実験器具の操作知識 | 実験レポートで「仮説→結果→考察」の流れを書く | 実験の準備・片付けに積極参加、レポートの提出期限厳守 |
| 社会 | 地理・歴史・公民の用語を教科書準拠で覚える | 資料の読み取り問題で根拠を引用して記述する | 時事ニュースと授業内容を関連づけたコメントを書く |
実技4教科は「技能」と「態度」で勝負が決まる
多くの都道府県で実技4教科(音楽・美術・保健体育・技術家庭)の評定は1.5〜2倍の傾斜配点になる。つまり、実技教科の評定を1つ上げることは、主要教科の1.5〜2倍のインパクトがある。
実技教科で評定を上げるポイントは3つだ。
- 実技テストの準備を甘く見ない:保健体育の筆記テストや音楽の楽典は、範囲が狭いぶん満点を狙いやすい
- 作品・制作物に「工夫の跡」を残す:美術や技術では、完成度より試行錯誤のプロセスが評価される
- 授業中の取り組み姿勢を一貫させる:苦手でも全力で取り組む姿勢は「主体的態度」でAに直結する
私の娘も中学に進学したとき、音楽のペーパーテストで学年上位を取ったことで評定5を確保できた。実技が得意でなくても筆記で補えるのが実技教科の特徴だ。
中1の1学期で「内申の初速」を確保する3つの設計
コンサルで「中学受験をしない」と決めた家庭に必ず伝えるのが、中1の1学期に全力を注ぐ設計だ。なぜなら、1学期の評定が「この生徒の基準」として教員の認識に残るからだ。一度「4の生徒」と認識されると、維持するのは容易だが、「3の生徒」が4に上がるには倍の努力が要る。
設計1:定期テスト2週間前からの「3ブロック制」を中学版に転用する
中学受験の家庭学習で私が推奨してきた「10分×3ブロック(復習・演習・説明タイム)」は、中学の定期テスト対策にもそのまま応用できる。中学版では以下のように設計する。
- ブロック1(15分):教科書とノートの復習──その日の授業内容を見直し、わからない箇所にマーカーを引く
- ブロック2(15分):ワーク演習──学校配布のワークを1セクション進める
- ブロック3(10分):説明タイム──その日学んだことを家族に1つだけ説明する
合計40分。テスト前だけ詰め込むのではなく、毎日この密度で回すことで「知識・技能」と「思考・判断・表現」の両方をカバーできる。
設計2:提出物の「質」を最初の1回で基準化する
内申点で最も差がつきやすいのが提出物だ。中1の最初の提出物で以下の3点を徹底する。
- 期限の2日前に完成させる:ギリギリ提出の習慣がつくと、以降ずっと「期限ギリギリの生徒」と認識される
- ワークの間違い直しを赤ペンだけで終わらせない:間違えた問題に「なぜ間違えたか」を1行メモする。これだけで「主体的態度」の評価が変わる
- 自主学習ノートを週2回以上提出する:義務でなくても出すことで「粘り強く取り組む姿勢」の証拠になる
設計3:授業中の「発言1回ルール」を親子で決める
「主体的に学習に取り組む態度」でAを取る最も確実な方法は、授業中に手を挙げて発言することだ。しかし中学生にとって「積極的に発言しろ」は抽象的すぎる。
そこで、「1授業につき1回だけ手を挙げる」というルールを家庭で設定する。1回なら心理的ハードルが低い。しかも毎日続ければ、教員から見ると「常に手を挙げる生徒」に映る。
朝5時に起きてランニングをしながら考えることがあるのだが、受験対策も内申対策も、結局は「小さな行動を構造的に積み上げる」ことに尽きる。派手な逆転劇ではなく、初動の設計が成果を決める。
「内申点が低い」と気づいたときの立て直し3ステップ
中2・中3で内申点の低さに焦る家庭からの相談も多い。立て直しの手順は、中学受験の苦手単元克服と同じ構造だ。
ステップ1:通知表を「観点別」に分解する
5段階の評定だけを見ても何が足りないかはわからない。通知表の観点別評価(A・B・C)を全教科分書き出し、BやCがついている観点を特定する。
過去問との相性で見ると──いや、内申点でも同じだ。「どの教科の、どの観点が足を引っ張っているか」を最初に特定する。これが対策の出発点になる。
ステップ2:改善インパクトの大きい教科を2つに絞る
9教科すべてを同時に上げようとすると、どれも中途半端に終わる。中学受験の夏休み対策で「同時に克服できる苦手単元は最大2つ」と指導してきたのと同じで、内申点の改善も最大2教科に集中投下するのが鉄則だ。
優先すべきは以下の順だ。
- 実技教科でBがCになっている科目(傾斜配点のため改善効果が最大)
- 主要教科で「主体的態度」だけがBの科目(提出物と授業態度の改善で短期間にAに変わりやすい)
- 得意教科で4止まりの科目(あと1つAに変えれば5になる可能性が高い)
ステップ3:次の定期テストまでの「行動計画」を紙に書く
改善対象の2教科について、次の定期テストまでに「何を・いつまでに・どのくらい」やるかを紙1枚に書き出す。抽象的な「頑張る」ではなく、具体的な行動に落とし込む。
たとえば「理科の主体的態度をBからAにする」なら、行動計画は「実験レポートを提出期限の3日前に完成させ、考察を3行以上書く」「授業中に実験の仮説を1回発言する」といった具体的なアクションになる。
都道府県別の内申点の扱い──制度の違いを知ることが戦略の前提
内申点の計算方法は都道府県によって大きく異なる。主な違いを整理しておく。
| 項目 | パターン例 |
|---|---|
| 対象学年 | 中3のみ(東京都)、中1〜中3の3年間(千葉県・神奈川県など) |
| 実技教科の傾斜 | 2倍(東京都・神奈川県など)、1.5倍、等倍など |
| 内申点と学力検査の比率 | 3:7、4:6、5:5など学校ごとに異なる場合も |
東京都の場合、内申点の対象は中3の2学期の成績のみで、実技4教科は2倍計算(満点65点)。一方、神奈川県は中2・中3の成績が対象で、計算方法も異なる。千葉県は中1〜中3の3年間すべてが対象だ。
自分の受験する都道府県の制度を小学校6年生のうちに確認しておくことを強く勧める。中1から内申が加算される地域では、入学直後から全力を出す必要がある。
よくある質問(FAQ)
Q1. 定期テストで90点以上取れば内申点は5になりますか?
テストの点数だけでは5にならない場合がある。3観点すべてでAを取ることが評定5の条件であり、「思考・判断・表現」や「主体的態度」がBだと4止まりになる。テストの応用問題・記述問題の得点率と、提出物・授業態度を合わせて確認してほしい。
Q2. 中1で内申点が低かった場合、中3で挽回できますか?
都道府県による。東京都は中3の成績のみが対象なので挽回可能だが、千葉県のように中1から加算される地域では取り返しが難しい。ただし、どの地域でも中3の内申が最も重視される傾向があるため、改善の余地はある。まずは自分の地域の制度を確認することが第一歩だ。
Q3. 塾に通えば内申点は上がりますか?
塾は「知識・技能」と「思考・判断・表現」の向上には役立つが、「主体的に学習に取り組む態度」は学校の授業と提出物でしか評価されない。塾の学習だけに頼ると3観点のうち1つが抜け落ちる構造的な問題がある。塾で学力を伸ばしつつ、学校での行動設計を家庭で整えるのが正しい順序だ。
Q4. 実技教科が苦手な場合、どうすれば内申点を上げられますか?
実技の巧拙だけで評定が決まるわけではない。実技教科にも筆記テストがあり、そこで高得点を取ることで「知識・技能」の観点をカバーできる。加えて、授業中に全力で取り組む姿勢は「主体的態度」の評価を確実に引き上げる。実技が苦手でも筆記テスト+態度で評定4は十分に狙える。
Q5. 部活動や生徒会は内申点に影響しますか?
内申書(調査書)の「特別活動の記録」に記載されるが、9教科の評定には直接影響しない。ただし、推薦入試や私立高校の出願基準で「部活動の実績」が加味される場合はある。内申点を上げたいなら、まず9教科の3観点評価を改善することが最優先だ。
参考文献
- 文部科学省「小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校等における児童生徒の学習評価及び指導要録の改善等について(通知)」(2019年)
- 東京都教育委員会「都立高等学校入学者選抜実施要綱」(2025年度版)
- 文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」(2017年)






