毎年9〜10月になると、保護者面談でよく出るのが「うちの子だけ運動会を嫌がっていて…どうすればいいですか」という相談です。

「練習はちゃんと行っているのに、前日から泣き出す」「朝から腹痛を訴える」「運動会に行きたくないとはっきり言う」。相談の内容はそれぞれ違いますが、保護者の顔に共通して浮かんでいるのは「うちの子だけ?」という不安です。

結論から言うと、運動会を嫌がる子は、どのクラスにも必ず何人かいます。「クラスの子はみんな楽しみにしているでしょ?」という思い込みは、ほぼ例外なく崩れます。そして、嫌がり方にはだいたい4つのパターンがある。これが分かると、声かけの方向性がガラリと変わります。

「うちだけ嫌がっている」は思い込みかもしれない

園で見ている限り、運動会の前に何らかの「嫌がりサイン」が出る子は、クラスの4〜5人に1人はいます。表に出ているのがその程度で、内心ドキドキしながらも表情に出さない子を含めると、もっと多いはずです。

保護者がお迎えに来たとき笑顔で走ってくる子が、実は前日の夜にこっそり「行きたくない」とつぶやいていたりする。保育士をやっていると、そういうギャップを何度も見てきました。

他の子と比べると見落としますが、子どもが「嫌だ」と言い出す勇気は、それだけ保護者に本音を話せているサインでもあります。最初から「どうやってその気にさせるか」を考えるより、まず「何が嫌なのか」を一緒に探ることの方が大切です。

「運動会が嫌だ」には4つのタイプがある

15年間、保護者面談で話を聞いてきた経験から、運動会を嫌がる子のパターンはおおよそ4つに分類できます。タイプが違えば、有効な声かけも変わります。

タイプ1: 注目負荷型「大勢に見られるのが怖い」

大勢の人に見られることへの不安が大きいタイプです。普段の保育室では積極的に動き回るのに、運動会になると急にしおれてしまう子に多く見られます。

祖父母まで集まってカメラを向けてくる状況は、3〜4歳の子どもにとって相当なプレッシャーです。3〜4歳頃は「自分が見られている」という意識が芽生える時期。その意識が強く出ると、見られること自体が負担になります。表現が苦手なだけで、本人は決して「参加したくない」わけではないのに、体が固まってしまう。そのタイプです。

タイプ2: 失敗恐怖型「負けるのが怖い、転びたくない」

競争で最後になること、転んで泣いてしまうことへの恐れが強いタイプです。4〜5歳になると自意識が高まり、「かっこ悪いところを見せたくない」という気持ちが出てきます。練習では問題なくできていても、「本番で失敗したら」と想像するだけで体が固まってしまう子がいます。

「速く走れなかったらどうしよう」「バトンを落としたら?」という想像力の豊かさが、逆に足を引っ張ってしまうパターンです。感受性の強さゆえの繊細さで、それ自体は長所なのですが、運動会という「競争」の場では裏目に出やすい。

タイプ3: 環境不一致型「練習と本番が全然違う」

運動会当日の雰囲気は、練習とは全く異なります。テント、椅子の並び、衣装、マイクの音、たくさんの大人の声援。こうした環境の変化が苦手なタイプで、年齢を問わず起きます。

本人は練習では「できる」という手応えがある。でも当日の環境が違いすぎて、どう動けばいいのか分からなくなってしまう。「コースが違う」「音楽の音量が違う」という些細な変化に混乱して泣き出すケースも珍しくありません。感覚が敏感な子に多い傾向があります。

タイプ4: 分離不安型「見えているのに一緒にいてくれない」

保護者の顔が見えるのに、隣にいてくれない。この状況に混乱するタイプです。普段の保育園では先生と一緒にいるから大丈夫。でも運動会では「お父さんが見ている」という安心と「でも一緒にいてくれない」という不安が同時に発生します。

1〜3歳の子に多いですが、普段から分離不安が強めの子では4〜5歳でも起きることがあります。「いやだ」という言葉の裏に「そばにいてほしい」が隠れているケース。「行きたくない」を額面通りに受け取らず、何が怖いのかをもう一段掘り下げてみてください。

やってしまいがちな3つのNG声かけ

自分の子が嫌がっていると、つい「何とかその気にさせなければ」と焦ります。その焦りから出てきやすい声かけが、実はことごとく逆効果なことが多いんです。

「頑張れ!絶対できるよ!」
励ましているつもりが、「できなかったらどうしよう」という不安を強める言葉になります。特に失敗恐怖型の子には、プレッシャーが増すだけです。鼓舞ではなく受け止めの言葉が先。

「○○くんは嫌だって言わないよ?」
他の子と比べる声かけは、子どもの「自分はダメなんだ」という感覚を強めます。嫌がっている理由は消えないまま、自己否定感だけが残ります。どのケースでも比較は逆効果です。

「終わったらおいしいもの食べに行こうね!」
ご褒美で乗り切ろうとする方法です。短期的には効くこともありますが、「つらいことをこなすための対価」というフレームが定着すると、翌年も同じ構造が繰り返されやすくなります。根本にある不安は解消されていないからです。

タイプ別の有効な声かけ3ステップ

タイプが分かったら、声かけも変わります。どのタイプでも共通する基本のステップは3つです。

ステップ1: 理由を丁寧に聞く

「嫌なんだね」と受け止めた上で、「何が一番嫌?」と聞きます。このとき「なんで?」「どうして?」と詰める形は避けて、「走るのが怖い?見られるのが嫌?」のように選択肢を並べると、子どもが言葉にしやすくなります。

子どもが理由を言えた瞬間に、「それは嫌だよね、教えてくれてありがとう」と受け取る。この一言で、子どもは「自分の気持ちが伝わった」と感じ、次の話ができるようになります。理由を聞く前に解決策を出してしまうと、子どもは「分かってもらえない」と感じて閉じてしまいます。

ステップ2: 「○○だけやってみよう」と部分参加を提案する

「全部参加しなくていい」という選択肢を作ることが大切です。「開会式だけ出よう」「お友達の隣に座ってるだけでいい」「入場行進だけやってみよう」のように、最小単位の参加を提案します。

注目負荷型の子には「お父さんの近くの席から見るだけでいい」、分離不安型の子には「入場したらすぐ近くで待ってるよ」という声かけが効きやすい。ゴールを「完走・完全参加」から「顔を出す」に設定し直すことで、子どもにとっての心理的ハードルが大きく下がります。

ステップ3: 結果ではなくプロセスを認める

運動会が終わったあとは、「速く走れたね!」「1位だったね!」という結果への言葉より、「緊張したのに来たんだね」「怖かったけど並んでたね、見てたよ」という過程への声かけの方が、子どもの次の一歩につながります。

砂場で子どもたちを長年観察してきた中で気づいたことがあります。「失敗しても次を試みる子」と「失敗したらやめてしまう子」の分岐点は、失敗そのものではなく、失敗したときの周囲の反応です。運動会でうまくいかなかったとき、親がどう受け止めるかが、翌年の「やってみようかな」に直結します。

前日〜当日の準備でできること

「嫌だ」という気持ちは声かけだけで消えるものではありません。でも、事前の準備で不安のハードルを少し下げることはできます。

前日: 「明日はこんな場所でやるよ」と会場の様子をざっくり話す。去年の運動会の写真や動画があれば一緒に見てみる。環境不一致型の子は「本番のイメージ」を持てるだけで当日の入り方が変わります。

当日の朝: 出発前に「緊張するよね」と先回りして受け止める。「頑張って!」より「緊張するよね、お父さん(お母さん)もずっと見てるよ」の方が安心感につながります。見通しを与えることが、準備です。

お気に入りを持たせる: タオル、お気に入りのハンカチ、小さなお守り。「これを持ってたら大丈夫」という感覚が、子どもにとって大きな支えになります。特に分離不安型の子には、保護者の「においのするもの」を持たせることで安心感が増すことがあります。

参加できなかった場合: 「来年はできるといいね」「なんでやらなかったの」という言葉は必要ありません。「今日来れたね」「並んでたね」「横で見てたね」のように、その日にできたことを言葉にするだけで十分です。それだけで、子どもは「来年、もう少しやってみようかな」と感じるものです。

FAQ

運動会を嫌がる子は、毎年ずっと嫌がり続けますか?

多くの場合、そうではありません。園で見ている限り、年長になるにつれて「友達と一緒にやりたい」という気持ちが勝ってきて、自然と参加できるようになる子がほとんどです。ただし「無理やり参加させた」という体験が残ると、翌年も嫌がりやすくなる傾向があります。「今年は少しだけでいい」という積み重ねが、翌年の参加意欲につながります。

先生に「うちの子が嫌がっている」と相談してもいいですか?

ぜひ相談してください。担任は運動会前後に子どもの様子を一番よく見ています。「どのタイミングで緊張しているか」「クラスの中でどう過ごしているか」を共有することで、当日の立ち位置を調整したり、見守り方を工夫したりすることができます。「心配しすぎ」と感じる必要はありません。

他の子は楽しそうなのに、うちの子だけが嫌がっている気がします

お迎えのときに見える「楽しそうな顔」は、その瞬間の一部分です。保護者面談でよく出るのが、「うちの子が一番嫌がっていると思っていたら、実はクラスの複数の子が同じように前日に泣いていた」という話です。比べることより、その子自身の「去年より少し前に進めた」を見てあげることの方が大切です。

運動会が嫌いな子は、発達に何か問題があるのでしょうか?

運動会を嫌がること自体は、発達上の問題を示すサインではありません。感受性が強い、環境の変化が苦手、競争が苦手、といった個性の範囲内で説明できるケースがほとんどです。ただし、運動会に限らず「新しい場所」「大勢の人がいる場所」全般に対して強い不安が長期間続いている場合は、保健センターや発達相談窓口に相談することも一つの選択肢です。

運動会が嫌なのは「甘え」ですか?

甘えではありません。子どもの「嫌だ」は、本物の感情です。大人から見れば些細な不安でも、子どもにとっては本人の全力が関わっていることが多い。「嫌だと言える」というのは、保護者との信頼関係ができているサインでもあります。その気持ちを受け止めることが、次の一歩の土台になります。

参考文献