9月に入ると、保護者面談でよく出るのが、こんな相談です。
「運動会の練習が始まってから、急に機嫌が悪くなって」「夜泣きが久しぶりに復活した」「帰ってきたらぐったりして夕飯を全然食べない」。
夏の疲れが抜けきらないうちに新学期が始まり、さらに運動会の練習が重なる9〜10月は、子どもの体が一年で最も揺れやすい時期のひとつです。15年間の保育現場で毎年繰り返し見てきた「練習疲れのパターン」と、家庭でできる対処法をまとめました。
なぜ運動会の練習でこんなに疲れるのか
「外遊びより激しいことをしているわけじゃないのに」と感じる保護者も多いのですが、現場から見ると、運動会練習の疲れには3つの要因が重なっています。
1. ペースを自分でコントロールできない
日常の外遊びは、子ども自身がペースをコントロールできます。疲れたら砂場でゆっくりし、動きたくなったら走る。けれど運動会の練習は、クラス全体で同じ動きを繰り返す。走るタイミング、止まるタイミング、隊形の整列──大人には大したことに見えなくても、子どもにとってはかなりのエネルギーを消耗します。
2. 9月はまだ暑い
「秋になったから大丈夫」と思いがちですが、9月上旬〜中旬の気温は真夏と大差ない日も多い。園で見ている限り、練習中に顔が赤くなったり、汗をかいたまま教室に戻って体が冷えたりと、夏と変わらない体への負荷がかかっています。特に屋外での練習が多い週は、疲れのサインが出やすくなります。
3. 「本番を意識した緊張感」が積み重なる
3歳以上になると、「本番でみんなに見られる」という意識が出てきます。先生や友達の前でうまくやろうとする緊張感は、楽しさと表裏一体。その緊張が日々積み重なると、精神的なエネルギーも消費されます。夕方帰ってきてから急に泣き出したり、些細なことで崩れたりするのは、日中のがんばりを解放しているサインでもあります。
年齢別・練習疲れのサイン3パターン
疲れの出方は年齢によって大きく異なります。他の子と比べると見落としますが、その子の「いつもと違う」に注目してみてください。
パターン1:0〜2歳(環境変化の影響を受けやすい)
0〜2歳クラスの子は、本格的な練習には参加しませんが、保育園全体の雰囲気が変わること(音楽が増える・にぎやかになる・先生が忙しそうにしている)で、環境変化のストレスを感じることがあります。
- 夜泣きが復活、または回数が増える
- 昼前からぐずる・眠そう
- 食欲にムラが出る(食べ始めてすぐ止める)
- 帰宅後ぐったり、いつもより早く眠くなる
パターン2:3〜4歳(最も疲れサインが出やすい年齢)
3〜4歳は練習の負荷が最も大きくかかる年齢です。クラスの踊りや行進など、毎日繰り返すプログラムが増えます。感情調整機能もまだ発達途上のため、疲れると行動面に直結しやすい。
- 帰宅後に「甘えっ子」に戻る(抱っこをせがむ・べったりする)
- 登園しぶりが始まる、または強くなる
- 些細なことでイヤイヤが激化する
- 夕食をほとんど食べない
- 就寝時間前に泣き崩れる
パターン3:5歳(行動の変化として現れる)
5歳になると「疲れた」と言語化できる子もいますが、言葉にせず行動で出てくることの方が多い。保護者面談でよく出るのが「いつもより覇気がない気がして」という表現です。給食の残量が増えたり、いつも仲良い友達との関わりが少し後退するのも疲れのサインです。
- 翌朝ぎりぎりまで起きられない・覚醒に時間がかかる
- 夕食後すぐに「もう寝る」と言う
- 給食の残量が増える
- 一人でいる時間が増える(友達関係が少し後退する)
- 「疲れた」「もうやりたくない」が口癖になる
「練習疲れ」と「病気のはじまり」の見分け方
「これって風邪を引きはじめているの?それとも疲れているだけ?」という相談は毎年必ず出てきます。判断の目安になる2点をお伝えしています。
週末に回復するか
練習疲れの場合、週末にたっぷり眠ると月曜日には元のペースに戻ることが多い。週が明けても改善しない、または悪化するときは病気のサインを疑います。
体温と顔色で確認する
37.4℃以下で顔色が普段通りなら、基本的には疲れで様子を見て大丈夫です。37.5℃以上が続く・顔色が悪い・ぐったりして反応が鈍い──このいずれかがあれば受診を検討してください。
家庭でできる回復ルーティン3ステップ
運動会練習が本格化する時期に、家庭で意識してほしいことを3つに絞ってお伝えしています。
ステップ1:就寝を30分前倒しする(最優先)
何よりも先に手をつけるのがここです。子どもの疲れは睡眠でしか本当の意味では回復しません。「いつも21時に寝ているなら20時半に」という小さな前倒しで、週の後半に向けた疲れの蓄積が変わります。
コツは「就寝だけ早める」のではなく、夕食・お風呂・就寝前ルーティンのセットをまるごと30分前倒しすることです。就寝時刻だけを操作しようとしても体内時計がついてこないため、効果が出にくい。
ステップ2:帰宅後15分の「ぼーっとタイム」を確保する
保育園から帰ってきた直後は、すぐに習い事や夕食の準備に動かさず、15分ほどの「ぼーっとする時間」を作ってみてください。テレビを見ていてもいい、ソファで横になっていてもいい。
帰宅後すぐにアクティブに動かそうとすると、夜になってかえって興奮して眠れなくなるパターンがあります。疲れた後の「切り替え時間」を意識的に確保することが、夜の就寝をスムーズにする下準備になります。
ステップ3:補食でエネルギー補給を先手で
食欲がなくて夕飯をほとんど食べない場合は、帰宅直後のおやつを少し充実させることで対応できます。おにぎり1個・バナナ1本・チーズ1個など、糖質とたんぱく質が手軽に取れるものが効果的です。
「おやつを食べると夕食が食べられない」と心配する保護者も多いですが、練習疲れの時期は「夕食1回でしっかり食べさせる」より「補食+軽め夕食」の方が子どもの胃に優しいことが多いです。
運動会当日も「疲れ管理」を意識して
本番当日は、前日の就寝管理と水分補給が鍵です。
- 前日の就寝:普段より30分は早めに。興奮している場合は照明を落として静かな声でゆっくり話しかけると入眠しやすくなります。
- 当日の水分補給:競技の合間にこまめに水を飲ませてください。本人が「喉が渇いた」と言える前に声をかけることが大切です。
- 帰宅後は休養優先:運動会当日の夜は、外食や人が多い場所は避けて早めに帰ることをお勧めしています。本番後の疲れはいつも以上です。
受診を検討するサイン
以下のいずれかが見られる場合は、保育園の担任にも状況を共有しつつ、小児科への受診を検討してください。
- 37.5℃以上の発熱が2日以上続く
- 水分が飲めない・おしっこが出ない
- 起こしても覚醒しない・反応が鈍い
- 顔色が青白い、または灰色がかっている
- 1週間以上、食欲や機嫌が戻らない
よくある質問
Q1. 運動会の練習が始まってから急に食欲がなくなりました。病気のはじまりですか?
A. 食欲低下だけであれば、まずは疲れを疑ってみてください。体温が平熱で顔色がふだん通りなら、2〜3日の様子見で大丈夫なことが多いです。水分が飲めない、ぐったりして起き上がれないなどが重なれば受診を検討してください。
Q2. 久しぶりに夜泣きが復活しました。どうすればいいですか?
A. 夜泣きの復活は疲れや環境変化への反応として自然に起こります。夜中に泣き始めたら、そばに寄り添って落ち着いた声で「大丈夫だよ」と伝えてください。電気をつけたり遊んだりせず、静かに安心感を与えるだけで十分です。就寝の前倒しで、数日で落ち着くことが多いです。
Q3. 運動会の練習を途中で休ませてもいいですか?
A. 発熱や明らかな体調不良があれば迷わず休ませてください。疲れがたまっている程度であれば、担任に状況を共有したうえで様子を見てもいいでしょう。「今日少し疲れ気味です」と朝に一言伝えるだけで、担任の見守り方が変わります。
Q4. 運動会当日に体調が悪そうな場合、参加させるべきですか?
A. 発熱がある場合は参加を見送るのが基本です。熱はなくても顔色が悪い・ぐったりしているなら無理をしないことをお勧めします。大切なのは本番より、練習を通じて積み重ねた体験です。
Q5. 運動会が終わったら何日くらいで回復しますか?
A. 週末にたっぷり眠ることができれば、多くの子は翌週には元のペースに戻ります。数週間にわたって練習が続いた場合は疲れが積み重なっているため、1〜2週間かかることもあります。あせらず、睡眠・食事・安心できる環境を整えることに集中してください。
参考文献
- 厚生労働省「保育所保育指針解説」(2018年)
- 鈴木みゆき(國學院大學)「保育の中の睡眠をめぐる問題」幼児期までのこどもの育ち部会 資料(こども家庭庁、2023年)
- 厚生労働省「こどもの睡眠」e-ヘルスネット(2023年)
- 日本小児科医会「子どものからだと心・連絡協議会 報告書」(2022年)






