7月に入ると、コンサルに来る保護者の相談は毎年同じフレーズから始まる。「算数の苦手をなんとかしたいんですが、夏期講習を全部取ったほうがいいですか?」──18年で2000名以上を指導してきた経験から断言する。算数の苦手克服で最初にやるべきは問題集の追加でも夏期講習の全コマ受講でもなく、模試の失点分析だ。
教材を増やして成績が上がった家庭は、私の経験上2割にも満たない。残りの8割は「やったのに伸びなかった」と9月に肩を落とす。その原因は明快で、穴の場所を特定せずに量を注ぎ込んでいるからだ。
なぜ「算数が苦手」のままでは対策が打てないのか
「算数が苦手」という言葉は、実は何も言っていないに等しい。割合が苦手なのか、速さが苦手なのか、図形が苦手なのか。さらに言えば、その単元の中で計算処理で落としているのか、そもそも立式できていないのか、途中で手が止まっているのか──ここまで分解しないと処方箋は書けない。
志望校選定の段階で勝負は決まっていると私はよく言うが、苦手克服も同じだ。「どこを」「どう」直すかを決める段階で、夏の成果の8割が決まる。
ステップ1:模試3回分の失点を「3分類」で仕分ける
まず直近の模試3回分の算数の解答用紙を並べる。間違えた問題を1問ずつ、以下の3つに分類してほしい。
- 計算ミス:立式はできているのに、計算過程で数字を間違えている。繰り上がり・繰り下がりのミス、小数点のズレ、約分忘れなど
- 立式不能:問題文を読んでも何をどう式にすればいいかわからない。白紙、または見当違いの式を書いている
- 途中停止:解き方の方向性は合っているが、途中で計算が複雑になって止まっている。時間切れもここに含む
この3分類は、私が講師時代から使い続けている仕分け法だ。3回分を並べると、「立式不能」が集中する単元が浮かび上がる。ここが夏に集中投下すべきポイントになる。
計算ミスは毎日の計算練習10分で改善する。途中停止は演習量で解決できることが多い。しかし立式不能は概念の理解そのものが不足している状態なので、根本から手を打つ必要がある。
ステップ2:立式不能が集中する単元を「最大2つ」に絞る
夏休みは40日ある。長いように思えるが、夏期講習の日程を引くと家庭学習に使える日数は実質20〜25日程度だ。同時に克服できる単元は最大2つが限界であり、3単元以上に手を広げると中途半端に終わる。
偏差値表ではなく過去問との相性で見ると、算数の苦手単元が志望校の頻出分野と重なっているかどうかが最優先の判断基準になる。志望校の過去問5年分を確認し、頻出単元と苦手単元が重なっている1〜2単元に絞り込む。
ステップ3:1日30分を「10分×3ブロック」で設計する
苦手単元の学習に必要な時間は、1日30分で十分だ。ただし、漫然と30分机に向かうのではなく、10分×3ブロックに分割する。
- ブロック1(復習10分):前日やった問題の解き方を、何も見ずに再現する。手が動かなければ、まだ定着していない証拠
- ブロック2(演習10分):新しい問題を1〜2問だけ解く。量より質。1問を丁寧に立式から書き切ることを優先する
- ブロック3(説明タイム10分):子どもに「今日やった問題を1つだけ教えて」と聞く。人に説明できるかどうかが、本当に理解しているかの最も正確な指標だ
朝5時に起きて過去問を分析するのが私の日課だが、この3ブロック制は朝型でも夜型でも機能する。大事なのは毎日同じ時間帯に同じ構成で取り組むことだ。
ステップ4:夏期講習は「引き算」で受ける
失点3分類の結果と志望校の出題マップを持って、塾の講師に相談してほしい。相談の目的は「足すコマ」ではなく「削るコマ」を決めることだ。
苦手単元に直結しないコマを引き算で削り、浮いた時間を家庭学習の3ブロックに充てる。私が講師時代に追跡したデータでは、全コマ+全オプション受講生の約4割が9月模試で偏差値2ポイント以上下落していた。一方、戦略的に絞った生徒群では同じ落ち幅を経験したのは約15%にとどまった。
講習を削ることに抵抗がある保護者は多い。しかし、授業を受けた時間ではなく、復習の質と量が夏の成果を決める。これは18年間で繰り返し確認してきた事実だ。
ステップ5:8月最終週に「確認テスト」を自作して成果を可視化する
夏の学習が終わったら、8月最終週に確認テストを親が自作する。といっても難しいものではない。夏に取り組んだ問題集から、各単元5問ずつ抜粋して制限時間をつけるだけだ。
このテストの目的は正答率の確認ではなく、「立式不能」が「途中停止」または「計算ミス」に変わっているかどうかを見ることにある。立式不能が減っていれば、概念の理解が進んだ証拠だ。9月以降の演習で得点力に転換できる。
割合・速さ・図形──3大苦手単元ごとのつまずきパターン
18年の指導経験から、算数の3大苦手単元にはそれぞれ固有のつまずきパターンがある。
割合
つまずきの本質は分数の概念理解不足だ。「3分の2」を「3つのうちの2つ」とイメージできない子は、割合の文章題で立式できない。対策は線分図を使って「全体」と「部分」を可視化する練習から始めること。問題集の難易度を4年生レベルまで戻してよい。
速さ
つまずきの本質は単位変換の混乱だ。時速・分速・秒速の変換でつまずく子は、速さの公式は覚えていても文章題で手が止まる。対策はダイヤグラム(時間と距離のグラフ)を必ず書く習慣をつけること。「図を書かずに解ける」は上級者の話だ。
図形
つまずきの本質は補助線のパターン不足だ。図形問題は「どこに線を引くか」で解法が決まるが、そのパターンは有限だ。頻出の補助線パターン5〜6種類を繰り返し経験させること。実物を折ったり切ったりする体験も、空間認知の土台になる。
親の役割は「管理」ではなく「環境整備」
以前コンサルで、偏差値60に届いていた家庭が夏に問題集を12冊買い込んでいたケースがあった。どれも1周目の途中で止まっていた。私は12冊を3冊に絞ることを提案した。塾テキスト+志望校過去問+苦手単元用1冊だ。結果、1日の家庭学習時間は変えずに第一志望に合格した。
夏の算数克服で親がやるべきことは、子どもの横に座って正誤を判定することではない。失点3分類の仕分け、塾への相談、教材の引き算、3ブロック制の時間設計──この4つが親の仕事だ。子どもが動くのはブロック1〜3の30分だけでいい。
親が動く範囲を最初に決める。これが夏の算数克服の出発点であり、9月以降の伸びを左右する最大の変数だ。
よくある質問(FAQ)
Q1. 失点3分類は親がやるべきですか?子ども本人にやらせてもいいですか?
小6であれば親が主導で行ってください。子ども自身は「なんとなく間違えた」としか認識していないケースが大半です。模試の解答用紙を並べて、1問ずつ「式は書けていたか」「計算で間違えたか」を客観的に仕分けるのは親の役割です。
Q2. 苦手単元が3つ以上ある場合はどうすればいいですか?
志望校の過去問で配点比重が高い単元を優先してください。3つ以上に手を広げると、どれも中途半端に終わります。夏は2単元に絞り、残りの単元は9月以降に回すほうが結果的に効率的です。
Q3. 4年生・5年生レベルまで戻るのは時間の無駄ではないですか?
概念理解が抜けている状態で6年生の問題を解いても、解法の丸暗記にしかなりません。4〜5年生のテキストに戻ることに抵抗を感じる保護者は多いですが、「立式不能」の問題が「途中停止」に変わるだけで得点は大きく動きます。遠回りに見えて最短ルートです。
Q4. 夏期講習のコマを削ると塾の先生に嫌がられませんか?
失点3分類の結果を持って相談すれば、まともな講師であれば具体的なアドバイスをくれます。「全部取ったほうがいい」としか言わない場合は、その講師はお子さんの弱点を把握していない可能性があります。データを見せて相談することが重要です。
Q5. 1日30分で本当に足りるのですか?
苦手単元の集中学習としては30分で十分です。ただし、これは苦手克服に充てる時間であり、塾の宿題や他科目の学習は別枠です。30分の中でペンが動いている「密度」を高めることが最優先であり、時間を伸ばしても密度が薄まれば成果は出ません。
参考文献
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)算数編」──算数の各領域で育成すべき資質・能力の整理
- インターエデュ「中学受験 算数の弱点は6年生の夏に克服しよう!夏期講習の賢い受け方」──夏期講習の活用法と苦手単元の学習法
- ダイヤモンド・オンライン「中学受験 夏休み明けまでに偏差値10アップは可能」──学年別の週間学習スケジュールと家庭学習法
- TOMAS schola「中学受験で差がつくのは算数!苦手単元トップ5の攻略法」──図形・割合・比・速さ・特殊算の攻略法





