「育休中は給付金があったから何とかなったけど、時短に入ったら最初の給与明細を見て愕然として……正直、毎月の教育費の積立が怖くなりました」

FP相談でよく聞かれるのが、まさにこの「育休明け・時短スタート直後の家計ショック」です。育休給付金が止まり、時短勤務で給与も下がる。しかも給与が減っているのに社会保険料はすぐには変わらない――この"二重のダメージ"を知らないまま復帰して、「思ったより手取りが少ない」と相談に来られる方が毎月のようにいます。

うちの長女のとき実際に、夫が時短勤務に切り替えた月の給与明細を見て固まりました。給与は25%下がっているのに、手取りの減少幅はそれ以上。「なぜ?」と計算したとき初めて「あ、社会保険料が3カ月タイムラグで変わらないんだ」と気づいたんです。

この記事では、月収20〜30万円台の3パターンで時短勤務後の手取りをシミュレーションします。あわせて、手取り減を和らげる2つの制度と、教育資金の積立を守るための先取り設計3ステップを整理します。

時短勤務で手取りが「給与減以上に」減る2つの理由

理由① 給与は時短率に比例して減る

多くの企業の時短勤務制度は「所定労働時間÷通常労働時間×基本給」で計算されます。フルタイム8時間のところを6時間に短縮すると、基本給は75%。月収30万円の方なら22万5,000円になります。

さらに残業代・一部手当も時短比率で変わるケースが多く、実際の総支給はそれ以上に減ることもあります。

理由② 社会保険料に「3カ月のタイムラグ」がある

問題はここです。給与が下がっても、社会保険料の算定基準となる「標準報酬月額」はすぐには変わりません。

変更のルール(随時改定)では、時短スタート月を含む連続3カ月の平均給与が2等級以上変わった場合に、翌月から保険料が改定されます。つまり時短に入ってから最短でも4カ月後まで、旧額の健康保険料・厚生年金保険料が給与から差し引かれ続けます。

【イメージ】月収30万円 → 時短で22.5万円に下がった場合
1〜3カ月目:給与22.5万円なのに社会保険料は旧額(30万円ベース)のまま
4カ月目以降:随時改定で保険料も22.5万円ベースに変更

つまり、育休中の給付金から「時短の安定手取り」に移行するまでに、段差が2段あるのです。この"タイムラグ期間"に家計が最もダメージを受けます。

月収20〜30万円台・3パターンの手取り試算

以下は、フルタイム8時間→時短6時間(75%)への変更を想定した概算です(協会けんぽ・東京都の2026年度保険料率、配偶者扶養なし・子ども1人を前提)。

パターン フルタイム
月収
時短後
月収
フルタイム時
手取り概算
時短後
手取り(安定後)
月の手取り減
A:月収20万円 20万円 15万円 約16.5万円 約12.5万円 ▲約4万円
B:月収25万円 25万円 18.8万円 約20.5万円 約15.7万円 ▲約4.8万円
C:月収30万円 30万円 22.5万円 約24.5万円 約18.8万円 ▲約5.7万円

さらに随時改定が完了するまでの最初の3〜4カ月は、これより月1〜2万円ほど手取りが少なくなります。時短スタート直後が最も家計的にきつい時期だと覚えておいてください。

この数字を見て「それだけ減るなら積立は無理」と感じた方、次の2つの制度を先に確認してください。

手取り減を和らげる2つの制度

① 育児時短就業給付金(2025年4月新設)

2025年4月から雇用保険の新制度として設けられた給付金で、時短勤務中に一定の要件を満たすと支給されます。

  • 支給額:時短勤務中の賃金の10%相当
  • 支給期間:2歳未満の子を養育している間(育休終了翌日〜)
  • 申請期限:育休終了日から4カ月以内にハローワークへ(事業主経由)
【試算例:パターンCの場合】
月収差(30万→22.5万)=7.5万円 × 10% = 約7,500円/月の補填
年間にすると 約9万円

「たった7,500円か」と思われるかもしれませんが、年9万円は無視できません。そして申請しなければ1円もらえません。「自動でもらえるもの」ではないため、復帰前に人事担当者に「育児時短就業給付金の手続きをお願いします」と一声かけてください。

② 養育期間標準報酬月額特例(これを知らないと年金で損する)

時短勤務で標準報酬月額が下がると、老後にもらえる厚生年金の受取額が減ってしまいます。これを防ぐのが「養育期間標準報酬月額特例」です。

この特例を申請すると、年金計算には時短前(高い)の標準報酬月額が使われる一方、実際に支払う保険料は時短後(低い)の標準報酬月額をもとに計算されます。つまり「保険料は安く・年金は減らない」という優れた制度です。

  • 対象:3歳未満の子を養育中で標準報酬月額が下がった被保険者(性別不問)
  • 申請書:「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」
  • 提出先:事業主経由で年金事務所へ
  • 遡及:過去2年までさかのぼって申請可能
【申請しなかった場合の年金への影響試算】
標準報酬月額が6万円ダウンした状態が3年続いた場合
→ 厚生年金の報酬比例部分:年間約1万1,840円・生涯約24万円の差

FP相談でよく聞かれるのが「申請したかどうか覚えていない」という声です。特に人事担当が制度自体を知らないケースもあります。2025年1月からは添付書類の簡略化も進みましたので、復帰手続きと同時に人事に確認することを強くおすすめします。

教育資金の積立を守るFP流先取り設計3ステップ

結論から言うと家計の見直しが先です。手取りが月4〜6万円減るのに、育休前と同じ積立額を続けようとすると家計が詰まります。かといって積立を「ゼロにする」のは最悪の手。一度止めると再開できない家庭がFP相談の実感で半数以上います。

ステップ① 復帰前に「2段階の手取り」を計算しておく

上の試算表を参考に、自分のパターンで2つの数字を出します。

  1. 時短直後(タイムラグ期)の手取り:社会保険料が旧額のまま引かれる最初の3カ月
  2. 時短後・安定期の手取り:随時改定完了後(4カ月目以降)

この2段階を事前に把握しておくと、「最初の3カ月は緊縮モード」「4カ月後から少し楽になる」という見通しが立ち、精神的にも安定します。できれば職場の給与担当に「復帰後の給与明細の見込みを教えてもらえますか」と事前確認するのが最も確実です。

ステップ② 復帰月に積立額を「最低額」に下げる(止めない)

時短勤務開始と同時に、教育資金の自動振替を月5,000円〜1万円にダウンサイズします。

大切なのは「止めない」こと。金額を下げても自動振替が動いていれば、増額のハードルは「今より〇〇円追加する」という小さな一歩です。しかしゼロにしてしまうと、再開には「新たに手続きする」という別の意思決定が必要になり、これが再開できない最大の壁になります。

ステップ③ 随時改定後に固定費見直しの差額を上乗せする

時短4〜6カ月目、随時改定が完了して手取りが安定したタイミングで、固定費を1カ所だけ見直します。

うちの長女のとき実際に、夫が時短勤務に切り替えた年に大手キャリアから格安SIMに乗り換えて年間14万円の通信費を削減しました。その月額差(約1.2万円)をそのまま教育資金の自動振替に追加しました。手取りが下がった年でも積立を維持できたのは、この「固定費を1カ所だけ変える」という一手があったからです。

固定費見直しで月5,000〜1万5,000円浮く家庭は珍しくありません。時短で削られた積立の穴を、この差額で埋めるのが最も再現性の高い方法です。

まとめ

  • 時短勤務で手取りは月4〜6万円減る。しかも最初の3カ月は社会保険料のタイムラグでさらに少ない
  • 育児時短就業給付金(時短中の給与の10%)と養育期間標準報酬月額特例(年金減少防止)は申請しないともらえない
  • 教育資金の積立は「止めず・小さく続ける→固定費見直しで段階的に戻す」設計が長続きのコツ

よくある質問(FAQ)

Q1. 時短勤務に入ったら、夫の扶養に入れますか?

年収130万円(月額約10.8万円)を下回る見込みであれば、配偶者の社会保険の扶養に入ることができます。ただし2026年10月の106万円の壁撤廃後は、従業員規模にかかわらず週20時間以上勤務すれば自身の会社で社会保険に加入することになります。時短後の勤務時間が週20時間以上の場合は、扶養に入ることはできません。自社の人事に確認してください。

Q2. 養育期間標準報酬月額特例はパパでも申請できますか?

申請できます。性別を問わず、3歳未満の子を養育していて標準報酬月額が下がった被保険者が対象です。パパが時短勤務に切り替えた場合も同様に申請可能で、過去2年まで遡及できます。人事担当者が制度を知らない場合もあるため、日本年金機構の「養育期間標準報酬月額特例申出書」の書式を確認しながら話を進めると効果的です。

Q3. 育児時短就業給付金と育児休業給付金の違いは?

育児休業給付金は育休中(無給・低給与の期間)に支給されるもの、育児時短就業給付金は育休明けに時短勤務している間(給与が出ている)に支給される2025年4月新設の制度です。申請窓口はどちらもハローワーク(事業主経由)ですが、書類と手続きが異なります。混同して申請漏れが起きやすいため、復帰前に人事担当者に「両方の手続き」を依頼してください。

Q4. 時短中に教育資金の積立を止めてしまいました。再開の目安はいつ?

随時改定が完了して手取りが安定する「時短4〜6カ月目」が最も再開しやすいタイミングです。ただし止める前の金額に一気に戻そうとすると心理的ハードルが上がります。まず月5,000円から再開し、固定費見直しで浮いた分を月1,000〜3,000円単位で上乗せしていく方式が継続率が高いです。

Q5. ひとり親の場合、時短復帰で追加確認すべき制度はありますか?

児童扶養手当は収入が下がることで支給額が増えるケースがあります。また、ひとり親は傷病手当金や高額療養費など公的保障の重要度が高く、時短中も社会保険継続の意義が大きいため、扶養に入るよりも自身で加入し続けることを推奨します。自治体の窓口に時短後の給与見込みを伝えて、児童扶養手当の試算を依頼してみてください。


参考文献

  1. 日本年金機構「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置(養育期間標準報酬月額特例申出書)」(https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/menjo/20150120.html)
  2. 厚生労働省「育児時短就業給付金(令和7年4月1日施行)」(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38705.html)
  3. 全国健康保険協会(協会けんぽ)「月額変更届(随時改定)について」(https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat320/sb3160/r56/)
  4. 厚生労働省「育児・介護休業法 令和6年改正 概要」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000130583.html)