FP相談でよく聞かれるのが「時短勤務にしたら年金も減るんですよね?」という質問です。答えは「そのまま何もしなければ、はい減ります」──でも、申請ひとつで年金額を守れる制度があることはあまり知られていません。

それが「養育期間標準報酬月額特例」(養育特例)。3歳未満の子を養育している間に標準報酬月額が下がった場合、年金計算上は下がる前の金額でみなしてもらえる制度です。しかも保険料は実際の給与ベースで計算されるので、保険料は安くなるのに年金は減らないという、子育て世帯にとって非常にありがたい仕組みになっています。

養育期間標準報酬月額特例とは?

厚生年金の年金額は、加入期間中の「標準報酬月額」の平均で決まります。育休から時短勤務で復帰すると、給与が下がるため標準報酬月額も下がり、将来の年金額に影響します。

養育特例は、子が3歳になるまでの養育期間中に標準報酬月額が下がった場合、年金額の計算では養育開始前(=子の誕生前月)の標準報酬月額を使ってくれる制度です。正式名称は「養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置」で、厚生年金保険法の第26条に基づいています。

ポイントを3つに整理すると

  • 年金計算:養育前の高い標準報酬月額でみなし計算 → 年金が減らない
  • 保険料:実際の低い標準報酬月額で計算 → 保険料は下がる
  • 対象期間:子が3歳になるまで(育休中も含む)

つまり「保険料は安く、年金は高く」という、申請しない理由が見当たらない制度です。

年金額にどれくらい差が出る?──標準報酬月額6万円ダウンのシミュレーション

うちの夫が時短勤務に切り替えたとき、標準報酬月額が30万円から24万円に下がりました。6万円の差が年金にどう影響するか、実際に計算してみます。

厚生年金の報酬比例部分の計算式(平成15年4月以降)は次の通りです。

年金額 = 平均標準報酬額 × 5.481/1000 × 被保険者月数

標準報酬月額6万円の差が3年間(36カ月)続いた場合、養育特例を申請しないと、年金の報酬比例部分が以下のように減ります。

項目計算
1カ月あたりの年金への影響6万円 × 5.481/1000 = 約329円/年
3年間(36カ月)の合計影響329円 × 36カ月 = 約11,840円/年
65歳から85歳まで受給した場合11,840円 × 20年 = 約23万7,000円

年間約1.2万円、一生涯では約24万円の差。「たった24万円?」と思うかもしれませんが、これは申請書1枚で守れるお金です。しかも標準報酬月額の差がもっと大きい家庭や、第2子・第3子の時短も含めると、差額はさらに膨らみます。

申請で見落としがちな3つのポイント

ポイント1:申請しないと適用されない「申請主義」

養育特例は会社が自動的にやってくれる制度ではありません。被保険者本人が申し出て、事業主経由で年金事務所に届け出る必要があります。FP相談1500件の中で、時短復帰した方に「養育特例は申請しましたか?」と聞くと、知らなかった方が体感で半数以上。人事担当者も知らないケースがあります。

逆に言えば、知っているかどうかだけで年金額が変わる。これは就学援助制度や高校無償化と同じ「申請主義の壁」です。

ポイント2:パパも対象──性別を問わず利用できる

養育特例は「3歳未満の子を養育している厚生年金被保険者」であれば、性別を問わず利用可能です。育休を取らずに時短勤務だけした場合も、時短勤務をせず残業を減らして標準報酬月額が下がった場合も対象になります。

うちは夫が時短勤務に切り替えた際に養育特例を申請しましたが、男性の申請はまだ少数派。育休取得率が上がっている今こそ、パパの申請忘れがないか確認してほしいポイントです。

ポイント3:過去2年分まで遡れる──出し忘れても間に合う場合がある

養育特例の申出は、申出日の前月から2年前まで遡って適用できます。つまり、第1子のときに知らずに出し忘れていても、子がまだ3歳未満か、あるいは3歳を過ぎていても2年以内であれば間に合う可能性があります。

ただし2年を超えた分は遡及できないため、早ければ早いほど有利です。

申請手続きの3ステップ

ステップ1:必要書類を準備する

2025年1月の改正で添付書類が大幅に簡素化されました。

  • 養育期間標準報酬月額特例申出書(日本年金機構のサイトからダウンロード可能)
  • 住民票の写し(申出者と子が同居していることの確認用)
  • 戸籍謄(抄)本2025年1月以降は、事業主が続柄を確認すれば省略可能

申出書にはマイナンバーの記載欄があり、マイナンバーで親子関係が確認できる場合も戸籍書類は不要です。

ステップ2:会社の人事・総務に提出する

申出書と添付書類を事業主(会社の人事部門)経由で年金事務所に提出します。直接年金事務所に行く必要はありません。退職済みの場合は、本人が直接年金事務所に申出できます。

人事に「養育期間標準報酬月額特例申出書を出したいのですが」と伝えれば、手続きに慣れた担当者なら対応してくれます。制度を知らない担当者の場合は、日本年金機構のページを共有するとスムーズです。

ステップ3:「ねんきん定期便」で適用を確認する

申請後、次回の「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、養育期間中の標準報酬月額が従前の金額でみなされているか確認しましょう。反映には数カ月かかる場合があります。

養育特例を申請すべき人チェックリスト

以下に1つでも当てはまれば、養育特例の申請を検討してください。

  • ☐ 育休から時短勤務で復帰した(またはする予定)
  • ☐ 3歳未満の子を養育しながら働いている
  • ☐ 育休は取らなかったが、残業を減らして給与が下がった
  • ☐ パートナーが時短勤務中(パパも対象)
  • ☐ 過去に時短勤務だった期間がある(2年以内なら遡及可能)

結論から言うと家計の見直しが先、ではあるのですが、養育特例は申請書1枚で将来の年金を守れる「やらない理由がない」制度。復帰の手続きと一緒に、人事にひと声かけるだけで済みます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 育休中も養育特例の対象になりますか?

はい。育休中は社会保険料が免除されており標準報酬月額は変わりませんが、養育特例の「養育期間」には育休期間も含まれます。育休中に標準報酬月額の改定があった場合に備え、育休開始時に併せて申請しておくのが安心です。

Q2. 第2子・第3子のときも改めて申請が必要ですか?

はい。養育特例は子ごとに申出が必要です。第1子で申請済みでも、第2子が生まれた際に改めて申出書を提出してください。特に第1子が3歳を超えている場合は、第2子の養育開始で新たに特例期間が始まります。

Q3. 時短勤務ではなくフルタイムに戻った場合はどうなりますか?

フルタイムに戻って標準報酬月額が養育前と同じかそれ以上になった場合、みなし措置は実質的に効果がなくなりますが、特例自体は子が3歳になるまで継続します。再び標準報酬月額が下がった場合(例:第2子の時短)に自動的に効果が復活します。

Q4. 派遣社員やパートでも申請できますか?

厚生年金に加入していれば、雇用形態に関係なく申請できます。パートでも社会保険に加入している方は対象です。ただし、国民年金の第1号被保険者(自営業・フリーランス)は厚生年金の制度のため対象外です。

Q5. 転職した場合、養育特例はどうなりますか?

転職先で改めて申出が必要です。前の会社で申請していた分はそのまま有効ですが、転職先では新たに「養育期間標準報酬月額特例申出書」を提出してください。転職のタイミングで申請を忘れるケースが多いので注意が必要です。

参考文献