9月になると年末調整の準備が頭をよぎる時期です。FP相談でよく聞かれるのが、「去年の秋に子どもが16歳になったんですが、何か年末調整で変わりましたか?」という質問です。正直、こういう相談が来るたびに少しもったいないと感じてしまいます。16歳になった瞬間から年38万円の扶養控除が始まるのに、知らずに申告を忘れている家庭がとても多いからです。

一方で、0〜15歳の間はこの控除がゼロ。扶養控除は、子どもの年齢とともに「ゼロ→38万円→63万円」と変化します。この仕組みを理解して節税分を教育費に回す設計をするだけで、年間10万〜17万円が教育資金に積み上がります。今回は年末調整前の秋に確認してほしい扶養控除の仕組みと、節税分を教育費に変えるFP流3ステップをお伝えします。

なぜ0〜15歳は扶養控除がゼロなのか

子どもを持つ親が最初に驚く事実がここです。0歳から15歳の子どもには、所得税の扶養控除が存在しません。「年少扶養控除」と呼ばれていた制度が、2011年に廃止されたためです。

長女が年少のころ、高齢の義父を扶養する場合との比較を試算したことがあります。義父(70歳未満)を扶養すれば38万円の控除があるのに、当時3歳の長女への控除はゼロ。計算式を眺めながらしばらく固まった記憶があります。うちの長女のとき実際に確認してみて、「子育て世帯への税制は厳しいな」と強く感じた体験でした。

年少扶養控除廃止の背景には、当時の児童手当拡充との政策的なトレードオフがあります。「控除は廃止するが、給付(児童手当)を手厚くする」という方向転換です。2024年10月の所得制限撤廃で児童手当の給付対象は広がりましたが、税制上の扶養控除はいまも0〜15歳はゼロのまま。代わりに児童手当の現金給付で家計を支える仕組みになっています。

16歳で「38万円」、19歳で「63万円」──年齢別の控除早見表

子どもが16歳を迎えた年の年末調整から、扶養控除の申告が始まります。重要なのは「12月31日時点の年齢」で判定すること。1月生まれでも12月生まれでも、その年の年末調整から適用されます。

子どもの年齢(12月31日時点) 控除の種類 所得税の控除額 住民税の控除額
0〜15歳 なし(年少扶養控除廃止) 0円 0円
16〜18歳(高校生年代) 一般扶養控除 38万円 33万円
19〜22歳(大学・専門学校年代) 特定扶養控除 63万円 45万円
23歳以上(要件を満たす場合) 一般扶養控除 38万円 33万円

実際の節税効果を、年収別に計算してみます。

親の年収(目安) 所得税率 16〜18歳(38万円)の節税額 19〜22歳(63万円)の節税額
400〜500万円台 10〜20% 約7〜11万円/年 約10〜17万円/年
600〜700万円台 20% 約10.9万円/年 約17.1万円/年
800〜900万円台 23% 約12.1万円/年 約19.0万円/年

年収600万円で計算した場合の内訳:
・所得税:38万円 × 20% = 7.6万円
・住民税:33万円 × 10% = 3.3万円
・合計:年10.9万円 = 月約9,000円が浮く計算です。

19歳(大学1年生)になると63万円の特定扶養控除に変わり:
・所得税:63万円 × 20% = 12.6万円
・住民税:45万円 × 10% = 4.5万円
・合計:年17.1万円 = 月約14,000円分の節税になります。

この差額6.2万円が「大学生の子を持つ家庭への税制優遇」です。学費が最もかかる大学在学中に控除を厚くする設計になっているのは、「親の負担が重い時期に手取りを守る」という制度の意図だと思っています。

2026年の変更点:子の年収上限が「123万円」に。大学生のアルバイトも確認を

扶養控除が適用されるには、子どもの年間の合計所得が58万円以下(給与収入換算で123万円以下)であることが条件です。2026年分から、この上限が従来の「合計所得48万円(給与収入103万円)以下」から改定されました。

大学生がアルバイトで月10万円程度稼いでも年120万円以下なら扶養控除の対象のままです。月10万円超が続く場合は年収を確認するようにしてください。

新設:特定親族特別控除(2025年分から)

FP相談でよく聞かれるのが、「子どものバイト収入が増えすぎて扶養から外れそうで困っています」という相談です。2025年分の所得から「特定親族特別控除」が新設され、19〜22歳の子の給与収入が123万〜188万円の範囲であれば、親の控除がゼロにはならない仕組みになりました。

子の給与収入(19〜22歳) 親の控除(所得税)
123万円以下 63万円(満額)
123万〜188万円 段階的に逓減
188万円超 0円

重要なのは、この特定親族特別控除は申請しないと受け取れない点です。年末調整の「給与所得者の特定親族特別控除申告書」への記入が必要です。子どものバイト収入が123万円を超えたら要確認です。

節税分を教育費に変えるFP流3ステップ

結論から言うと家計の見直しが先、というのは口癖になっていますが、扶養控除の話は「見直し」でなく「仕組みを知るだけで得する話」です。ただし知っているだけでは教育費は増えません。浮いた節税額を意識的に教育資金へ流す仕組みが必要です。

Step 1:自分の節税額を計算して「見える化」する

まず今年の12月31日時点で子どもが16〜22歳の範囲に入るかを確認します。一般扶養か特定扶養かを確定させたら、下の計算式で節税額を試算します。

節税額の計算式
所得税の節税額 = 控除額(38万円 or 63万円)× 所得税率
住民税の節税額 = 控除額(33万円 or 45万円)× 10%
合計節税額 = 所得税節税額 + 住民税節税額

所得税率の目安:課税所得195万〜330万円→10%、330万〜695万円→20%、695万〜900万円→23%

年末調整の結果として還付される税額と、翌年6月の住民税通知書で減額される分の合計が「手元に残る金額」です。

Step 2:節税分と同額を教育資金口座へ「即日振替」する設定を今作る

年末調整の還付金は12月〜1月の給与に上乗せされます。このタイミングで「いつもより給与が多い」と感じても、生活費に溶かしてしまったらゼロです。

設定のポイントは2つ:

  • 年末調整の還付月(12月か1月)に一括で教育資金口座へ振替する予約を今のうちにカレンダーに入れておく
  • あるいは12カ月で割って、今から月々の自動積立額を増やす設定にする(16〜18歳なら月9,000円増、19〜22歳なら月14,000円増が目安)

Step 3:翌年以降も「申告漏れゼロ」を仕組みにする

扶養控除の申告は年末調整で毎年必要です。「去年も書いたから今年は省略」は通用しません。スマートフォンのリマインダーに毎年10月15日「子どもの年齢と年収確認・年末調整準備」と設定するだけで申告漏れのリスクが下がります。

特に要注意なタイミング:

  • 子どもが16歳になった年→一般扶養控除の申告開始
  • 子どもが19歳(大学入学)の年→特定扶養控除に切り替え
  • 子どもがバイト収入123万円超になった年→特定親族特別控除の申告書が必要
  • 子どもが就職した年→扶養控除終了の確認

よくある質問

Q1. 子どもが12月31日に16歳になりました。その年の年末調整から使えますか?

はい、使えます。12月31日時点で16歳であれば、その年の年末調整から一般扶養控除38万円の申告ができます。早生まれ(1〜3月生まれ)の場合も同様で、12月31日を基準に判定します。

Q2. 子どもが2人いて、16歳と21歳の場合、2人分の控除が受けられますか?

はい。1人ずつ独立して控除されます。16歳の子(38万円の一般扶養控除)+21歳の子(63万円の特定扶養控除)=合計101万円の控除が適用されます。どちらの子の合計所得も58万円(給与収入123万円)以下であることが条件です。

Q3. 共働きの場合、どちらの親が扶養控除を申告すればいいですか?

一人の子どもを夫婦で重複して申告することはできません。原則として所得税率が高い方(年収が多い方)が申告した方が節税効果が大きくなります。育休や時短で年収が一時的に下がっている年は見直しのタイミングです。

Q4. 大学生の子が就職先から「アルバイト収入が130万円を超えた」と言ってきました。扶養から外れますか?

所得税・住民税の扶養控除と、健康保険の「社会保険上の扶養」は別の話です。所得税の扶養控除は子の給与収入が123万円以下なら満額(63万円)が適用されます。123万〜188万円なら特定親族特別控除が段階的に適用されます。ただし健康保険の扶養(いわゆる「130万円の壁」)とは別ですので、それぞれ確認してください。

Q5. 子どもが専門学校(2年制)に通っています。特定扶養控除は受けられますか?

受けられます。特定扶養控除は「19〜22歳の扶養親族」に適用され、在学・就業の状況は問われません。専門学校の2年制であれば在学中は19〜20歳が多く、特定扶養控除63万円の対象になります。

まとめ

子どもの年齢によって、年末調整の節税額が「ゼロ→10.9万円→17.1万円」と変化する扶養控除。知っているだけでは教育費は増えません。「浮いた節税分をそのまま教育資金口座に流す仕組み」を今の秋のうちに作っておくことが重要です。

年末調整の準備が始まる10〜11月。子どもの年齢確認・アルバイト収入確認・控除額試算の3つを今月中に済ませておきましょう。

参考文献