FP相談でよく聞かれるのが「育休中って住宅ローン控除はどうなるんですか?」という質問です。結論から言うと、育休中は控除の恩恵がほぼゼロになるケースがあり、時短勤務でも控除額を使い切れない「控除あまり」が発生します。
うちの長女のとき実際に、夫が時短勤務に切り替えた年の年末調整で、住宅ローン控除の「控除あまり」を体験しました。ローン残高×0.7%で計算した控除可能額に対して、所得税額が激減していて控除を使い切れなかったんです。年間で約4万円分の控除が消えてしまいました。
この記事では、育休・時短勤務中の住宅ローン控除のロスがなぜ起きるのか、いくら損をするのか、そしてどう防ぐかを整理します。
そもそも住宅ローン控除の仕組みをおさらい
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)は、年末時点のローン残高×0.7%が所得税から差し引かれる制度です。2026年現在、新築の場合は最大13年間適用されます。
ポイントは「所得税から引く」という点。控除できる金額が所得税額を超える場合、超えた分は翌年の住民税から控除されますが、住民税からの控除には上限9.75万円という天井があります。
つまり、所得税+住民税(上限9.75万円)の合計を超える控除額は、どこからも引けずに消えてしまいます。これが「控除あまり」です。
育休中に控除が「消える」メカニズム
育休中にもらえる育児休業給付金は税法上の非課税所得です。つまり、1年間まるまる育休を取得した場合、その年の所得税はゼロになります。
所得税がゼロということは、住宅ローン控除で差し引く相手がいません。住民税からの控除も、前年の所得に基づいて計算されるため、育休2年目以降は住民税自体が大幅に下がります。
具体的なシミュレーション:ローン残高3,000万円の場合
| 項目 | 通常勤務時 | 育休中(丸1年) |
|---|---|---|
| 住宅ローン控除可能額(残高3,000万円×0.7%) | 21万円 | 21万円 |
| 所得税額 | 約15万円 | 0円 |
| 住民税からの控除(上限9.75万円) | 6万円 | 最大9.75万円※ |
| 実際に控除できた額 | 21万円 | 最大9.75万円 |
| 控除あまり(ロス額) | 0円 | 約11.25万円 |
※育休1年目の住民税は前年(通常勤務)の所得に基づくため、住民税自体は発生しますが、控除上限は9.75万円です。育休2年目は住民税も大幅に減少するため、ロスがさらに拡大します。
時短勤務でも「控除あまり」は起きる
育休から復帰して時短勤務を選んだ場合も注意が必要です。フルタイム年収500万円の方が時短勤務で年収350万円になると、所得税額は約15万円から約6万円程度に下がります。
この場合、ローン残高3,000万円×0.7%=21万円の控除可能額に対し、所得税6万円+住民税9.75万円=15.75万円しか控除できません。年間約5万円が控除あまりとして消える計算です。
時短勤務が2〜3年続くと、この控除ロスは合計で10〜15万円に積み上がります。
ペアローンは「片方が育休」で特にロスが大きい
夫婦でペアローンを組んでいる場合、育休を取った側のローン分の控除がまるごと使えなくなります。たとえば夫婦それぞれ2,000万円ずつのペアローンで、妻が1年間育休を取ると、妻側の控除可能額14万円がほぼ全額ロスになるケースもあります。
FP相談でこのパターンの相談は増えていて、ペアローンで住宅購入を検討する段階で、育休・時短の期間を含めた13年間の控除シミュレーションを作ることをお勧めしています。
「控除あまり」を防ぐ3つの対策
対策1:適用期間延長制度を活用する(2022年度税制改正で導入)
育休などの理由で控除額を使い切れなかった年がある場合、控除期間を最大3年間後ろ倒しにできる制度があります。通常13年の控除期間が最長16年間になります。
ただし、この制度は自動適用ではありません。本来の控除期間が終わった翌年以降、延長を受けたい最初の年に確定申告で所定の書類を税務署に提出する必要があります。「申請しなければ使えない」という申請主義の制度なので、控除期間の終了年をカレンダーに入れておくことが大切です。
対策2:育休前にExcelで13年間の控除シミュレーションを作る
朝5時に起きてExcel家計簿を更新するのが日課の私ですが、住宅購入時に13年間の控除シミュレーションシートを作っておくことを強くお勧めします。
作り方はシンプルです。
- 年末ローン残高の推移を13年分記入(返済予定表をもとに)
- 各年の残高×0.7%で控除可能額を算出
- 育休・時短の年は予想所得税額を記入し、控除可能額との差を計算
- 住民税からの控除上限9.75万円を加味して、実際に控除できる額と控除あまりの額を出す
このシートがあれば「育休で何年分、いくらの控除が消えるのか」が一目でわかり、適用期間延長の申請忘れも防げます。
対策3:年の途中復帰なら給与収入が発生する月をチェック
育休からの復帰が年の途中(たとえば9月復帰)であれば、その年は4カ月分の給与収入があり、少額ながら所得税が発生します。この場合は確定申告で住宅ローン控除を受けることで、少なくとも所得税分は還付を受けられます。
ポイントは年末調整だけで済ませないこと。復帰が年の後半で給与が少ない場合、源泉徴収されている所得税を確定申告で取り戻す作業を忘れがちです。
控除あまりが起きたらチェックすべき3つのこと
- 適用期間延長の対象か確認──2022年1月1日以降の入居かつ、控除しきれなかった年があることが条件
- 医療費控除との関係を確認──出産年は医療費控除も該当しやすいが、育休中は所得税ゼロで医療費控除も効果がない。翌年以降の還付申告(5年以内)を検討
- ふるさと納税の上限額を再計算──育休・時短で所得が下がると、ふるさと納税の控除上限額も連動して下がる。ワンストップ特例の適用にも影響するため要確認
よくある質問(FAQ)
Q1. 育休中でも確定申告は必要ですか?
育休中に所得がゼロの場合、確定申告は義務ではありません。ただし、年の途中まで給与収入があった場合は、確定申告をすることで源泉徴収された所得税の還付を受けられる可能性があります。住宅ローン控除の適用を受けるためにも確定申告は有効です。
Q2. 控除あまりの分は翌年に繰り越せますか?
繰り越しはできません。住宅ローン控除は「その年の所得税+住民税の一部」から差し引く制度で、使い切れなかった控除額を翌年に持ち越す仕組みはありません。ただし、2022年度税制改正で導入された「適用期間延長制度」を使えば、控除期間を最大3年延長できます。
Q3. 時短勤務で年収が下がったら住宅ローン控除はなくなりますか?
なくなりません。年収が下がっても住宅ローン控除の適用要件(合計所得金額2,000万円以下等)を満たしていれば控除は受けられます。ただし、所得税額が減るため控除を使い切れない「控除あまり」が発生しやすくなります。
Q4. ペアローンで片方が育休の場合、もう片方に控除を移せますか?
移せません。住宅ローン控除はそれぞれのローン残高に対して個別に適用されるため、育休中の配偶者の控除枠をもう片方が使うことはできません。ペアローンを検討する際は、育休取得予定も含めた長期シミュレーションが重要です。
Q5. 適用期間延長制度はいつ申請すればいいですか?
本来の控除期間(13年)が終了した翌年以降に、延長を受けたい最初の年の確定申告で申請します。控除期間の最終年をカレンダーやExcel家計簿に記録しておき、申請漏れを防ぎましょう。
まとめ:控除ロスは「知っているかどうか」で防げる
住宅ローン控除の「控除あまり」は、育休中で年間10万円超、時短勤務でも年間数万円の損失になりえます。13年間の控除期間で育休・時短が重なる子育て世帯にとって、この制度の落とし穴を知っておくことは家計防衛の第一歩です。
結論から言うと家計の見直しが先──ですが、見直しの中で住宅ローン控除のシミュレーションを「ローン返済表と一緒に」管理する習慣をつけておけば、申請漏れによるロスは防げます。適用期間延長制度という救済措置があることを頭の片隅に置いて、控除期間の最終年にアラートを仕掛けておきましょう。




