10月に入ると、毎年決まって連絡が来ます。卒園していった子の保護者から、あるいは同じ園の保護者同士の輪から。

「先生、うちの子が2学期に入ってから急に学校がしんどそうで……」

保護者面談でよく出るのが、このパターンです。1学期は「楽しい!」と毎朝元気に通っていたのに、9〜10月に入ってから朝の出発が重くなる。宿題に時間がかかるようになる。消しゴムで何度も消しながら泣いている——。

私は認可保育園で15年、0歳児から5歳児まで全クラスを担当し、主任保育士として保護者面談も数えきれないほど重ねてきました。年長クラスを送り出した後も、小学校の先生方との情報交換や保護者からの報告を通じて、「入学後につまずく子のパターン」が少しずつ蓄積されてきました。

結論から言うと、2学期の壁はほぼ全員に訪れます。これは子どもの能力の問題ではなく、1学期と2学期の学習量・難易度の落差が大きすぎるためです。そして保育園の現場から見ていると、つまずきの予兆は就学前に見えていることが少なくない。

この記事では、小学1年生が2学期につまずきやすい5つのポイントと、今秋から家庭でできるサポートをまとめます。

なぜ2学期に壁が来るのか

小学1年生の1学期は、学校生活への「慣れ」が最優先です。学習内容もひらがなの書き方・数の概念(〜20程度)・たし算の基礎と、比較的ゆっくり進みます。ところが2学期に入ると話が変わります。

  • 算数:繰り下がりのある引き算(11月前後に本格化、1年生最大の山)
  • 国語:カタカナの読み書き+簡単な漢字がスタート
  • 生活・道徳:グループ活動・学校行事(運動会・学芸会)が集中
  • 宿題の量も1学期より増え始める

加えて、夏休みで崩れた生活リズムのまま2学期を迎えると、授業中の集中力が落ちます。学習面と生活面のハードルが同時に上がるのが2学期の構造です。

5つのつまずきの壁と保育園での前兆

① 繰り下がりのある引き算

「13-7」のような計算は、「10のまとまりから考える」という抽象操作が必要です。たし算の「足せばいい」より難しく、多くの子が11〜12月ごろに詰まります。算数嫌いが固まりやすい単元でもあります。

保育園での前兆:園で見ている限り、数の合成・分解(「5は2と3」「7は4と3」など)の感覚が育っていた子は比較的スムーズです。積み木を「こっちに5個、あっちに3個」と分けて遊んだり、おやつの配分を楽しんでいた子が該当します。

家庭でできること:計算カードの丸暗記より、ブロックや硬貨で「10を作って・壊す」遊びを先にしてください。「10円から7円払ったら何円残る?」のように日常の言葉でイメージをつかむことが理解の土台になります。

② カタカナの読み書き

ひらがなは字ごとに形が大きく異なりますが、カタカナは直線・角が多く、「ソ・ン」「ア・マ」「ウ・ラ」など形が似た文字の識別に苦労する子が続出します。2学期の国語で最初の「書く壁」になりやすい。

保育園での前兆:視覚的な形の識別が得意な子は早く定着します。パズル・型はめ・絵の中の間違い探しが好きだった子は比較的早い。

家庭でできること:ドリルより先に「日常でカタカナを読む」習慣を。食品パッケージ、お菓子の名前、自販機のボタン、テレビのテロップ——生活の中にカタカナはあふれています。「読める」字を積み重ねてから「書く」に移ると定着が早い。

③ 作文・文章表現

1学期は「写す」作業が中心でしたが、2学期からは「自分で考えて書く」課題が増えます。夏休みの絵日記もその一つ。「何を書けばいいかわからない」で固まる子が出てくる時期です。

他の子と比べると見落としますが、「ことばで気持ちを伝える練習」を積んできたかどうかの差がここで出ます。保育士がそばで「今日楽しかったのは何?」「どうしてそう思ったの?」と繰り返し問いかけてきた子は、体験を言語化する土台ができています。

家庭でできること:夕食時に「今日あったこと、3つ教えて」と聞くだけで充分です。最初は箇条書きのように短くても、毎日続けることで「体験→言語化」の回路が育ちます。書く前の「話す」練習が作文力の基礎になります。

④ 帰宅後の疲れと宿題の壁

2学期は行事も多く、子どもの疲れが1学期の比ではありません。運動会・遠足・学芸会の練習が重なる中で、放課後に帰宅する子どもはすでにヘトヘトの状態です。そこに宿題という壁が加わる。

保育園での前兆:就寝時刻が安定していなかった子、夕方になると集中力の波が激しかった子は、帰宅後の宿題タイムに入れない日が続きやすいです。

家庭でできること:宿題は「帰ってすぐ」より「おやつ後15分」が継続しやすい。ポイントは「量ではなく時間を決める」こと。15分で終わらなくても切り上げてよい、という覚悟が宿題拒否を防ぎます。担任に「全部できない日もある」と事前に伝えておくと、子どもも安心できます。

⑤ 友達関係の複雑化

1学期はまだ「みんなと仲よく」の段階でしたが、2学期からは徐々にグループや相性が出てきます。「Aちゃんがいやなことを言った」「仲間に入れてもらえなかった」という話が増えるのも2学期以降です。

保育園での前兆:保育園の時期に「ことばで気持ちを伝えること」「困ったとき大人に助けを求めること」を繰り返し練習してきた子は、トラブル後の立て直しが早い。「我慢して黙る」パターンが定着している子は、家で帰宅後の爆発として出てくることがあります。

家庭でできること:「学校どうだった?」より「今日、誰かと楽しかったこと・困ったことある?」と少し具体的に聞くと話しやすくなります。解決策を急ぐより「それは困ったね」と受け止めることを先に。2〜3日様子を見て変化がない場合は担任に相談を。

2学期のつまずきは「個人差」ではなく「制度の落差」

卒園した子どもたちの追跡を続けてきて、繰り返し実感してきたことがあります。入学後につまずく子の共通点は、学力ではなく生活の自立だということです。着替え・持ち物管理・時間の見通し・SOSを出す力——これらが整っていない状態で授業内容が難しくなると、認知的な余裕がなくなります。

2学期の壁は多くの子に来ます。でもその壁の高さは、日常生活が安定しているかどうかで大きく変わる。勉強が嫌いになり始めたと感じたら、まず「睡眠・食事・帰宅後のルーティン」を整えることが先決です。

焦って先取り学習を詰め込む必要はありません。毎日同じ時間に起きて、ごはんを食べて、少しだけ宿題をして、親と話して寝る。その当たり前のルーティンが、子どもの学習を支える最強の土台です。


よくある質問

Q. 2学期に入ってから「学校に行きたくない」と言い出しました。すぐに休ませてもいいですか?

A. まず「どんなときが嫌なのか」を具体的に聞いてみてください。勉強の特定の単元・友達との出来事・疲れ、のどれかが多いです。「行きたくない」が続く場合でも、日中の様子(給食・休み時間に落ち着けているか)を担任に確認することで判断材料が増えます。1〜2週間続く場合は担任に相談することをすすめます。

Q. 繰り下がりの引き算が全然できません。何か教材を買った方がいいですか?

A. 教材を買う前に、ブロックや硬貨など「実際に手で動かせるもの」で10を作る・分解する遊びを先にしてください。「10個から7個取ると3個残る」を手で確かめることが理解の土台です。プリントをやらせる前に「体で経験する」が順番です。

Q. カタカナが全然覚えられません。ドリルを追加した方がいいですか?

A. ドリルより先に、生活の中でカタカナを「読む」機会を増やすことをすすめます。食品パッケージ・お菓子の名前・テレビのテロップを一緒に読むだけで充分です。読める字を積み重ねてから書く練習に移ると定着が早くなります。

Q. 宿題に1時間以上かかっています。どうすればいいですか?

A. 「1時間以上かかること」自体が、集中力や疲れのサインです。量を減らすことを担任に相談してよいです。宿題の目的は「終わらせること」ではなく「毎日少しやる習慣をつけること」。15〜20分を目安に切り上げ、「残りは明日先生に相談する」という選択肢を教えてあげてください。

Q. 友達関係のトラブルが続いています。学校に相談すべきですか?

A. まず子どもの話をしっかり聞いて、気持ちを受け止めることが先です。すぐに担任に連絡するより先に「どうしてほしい?」と本人に聞いてみてください。解決を急ぐと「先生に言ったら大事になる」と黙るようになることがあります。2〜3日様子を見て変化がない場合に担任へ相談するのがスムーズです。


参考文献

  1. 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 算数編」文部科学省(2017年)
  2. 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編」文部科学省(2017年)
  3. 七田式教育「なぜ小学1年生の算数はつまずきやすいのか?」七田式公式サイト(2024年)
  4. RISU Japan「繰り下がりのある引き算の教え方は?」RISU学び相談室(2025年)
  5. 学研キッズネット「低学年のうちに克服しておきたい算数のつまずき」学研(2024年)