男性の育休取得率が40.5%に達した2024年度──数字だけ見ると「もう普通のことでしょ」と思われるかもしれません。でも、実際に育休取った身として言うと、取得率が上がっても「上司に切り出す瞬間の緊張感」はまったく変わっていないと思うんです。

僕が第一子の誕生で6ヶ月の育休を取ったのは数年前。大手通信の法人営業10年目でした。取得率が今より低い時代でしたが、切り出し方で失敗しなかったのは、事前に5つの準備をしていたから。この記事では、僕の実体験をもとに「言い出せない壁」の正体と、上司に伝えるまでのステップを整理します。

男性育休「言い出せない」の正体──3つの壁

保育園の送り迎えで立ち話する他のパパたちからも「育休、取りたかったけど結局言い出せなかった」という声をよく聞きます。その「言い出せない」を分解すると、大きく3つの壁があります。

壁①:「迷惑をかける」という罪悪感

自分が抜ける間、誰かが業務を引き継ぐ。その負担を考えると申し訳なくて言い出せない──これが最も多い壁です。でも冷静に考えると、異動や転職でも同じことは起きます。業務の属人化を解消するチャンスと捉える上司も実は少なくありません。

壁②:「キャリアに傷がつく」という恐怖

正直に言うと、僕もこの壁が一番高かった。育休3ヶ月目に同期のSNS投稿で昇格報告を見て眠れなくなった夜があったくらいです。でもそのとき妻と「この育休のために何を捨てているか/何を得ているか」を書き出して気づいたんです。子と妻と過ごす最初の1年は復元不能。短期の出世は復元可能。言語化すると恐怖は半分に縮みました。

壁③:「前例がない」という情報不足

社内に男性育休の前例がないと、誰に何をどう伝えればいいかわからない。制度はあるのに使い方がわからない。2025年10月の法改正で企業には「個別の意向聴取・配慮」が義務化されましたが、待っていても会社から声がかかるとは限りません。自分から動く準備が必要です。

上司への切り出し方──僕が実践した3つのステップ

上司にどう切り出したかなんですけど、ポイントは「相談」ではなく「報告+提案」のフォーマットで伝えることでした。

ステップ1:1on1で「事実」から入る

僕は月次の1on1の冒頭で切り出しました。「来年の◯月に第一子が生まれる予定です。育児休業を◯ヶ月取得したいと考えています」──ここで大事なのは「取りたいのですが…」と語尾を濁さないこと。「取得します」と意思表示したうえで、期間と時期を明確にする。制度を使うことに許可は要りません。

ステップ2:業務引き継ぎの「たたき台」を持っていく

上司が最も気にするのは「で、仕事どうするの?」です。だから僕は切り出す日までに、自分の担当案件を一覧化し、引き継ぎ先の候補と引き継ぎスケジュールのたたき台をA4一枚にまとめて持っていきました。完璧じゃなくていい。「業務のことは考えています」という姿勢を見せることが、上司の不安を下げます。

ステップ3:復帰後のイメージも伝える

「◯月に復帰して、時短勤務で戻る予定です」と復帰後の働き方まで見せると、上司は判断しやすくなります。僕の場合は「復帰後は時短で17時退勤になりますが、朝は8時半に出社できます」と具体的に伝えました。意思+配慮+期限──この3点セットで切り出すと、上司の反応はかなりフラットになります。

育休取得前に準備すべき5つのこと

1. 就業規則の育児関連規定を読む

法律上の権利(育児休業は原則1歳まで、産後パパ育休は出生後8週間以内に4週間)は最低ライン。会社によっては独自に期間延長や特別有給を設けていることもあります。僕も人事に「うちの会社はこの制度、具体的にどう運用しているんですか?」と直接聞きに行きました。制度改正は待っていても誰も教えてくれない。自分から人事に聞きに行くのが最速です。

2. 給付金の手取りシミュレーションをする

育休中の収入不安は切り出せない大きな理由のひとつ。でも、2025年4月から始まった「出生後休業支援給付金」で、両親ともに14日以上の育休を取ると、最大28日間は手取り10割相当(休業前賃金の80%+社会保険料免除+非課税)になりました。

さらに、育休中は健康保険料・厚生年金保険料が免除されます。「育休=無給」ではありません。僕も妻と夜な夜な電卓を叩いて、給与明細3ヶ月分の内訳を把握し、社会保険料を引き直し、世帯年収ベースで家計を再設計しました。数字で見えると不安は具体的な対策に変わります。

3. 業務の「属人化マップ」を作る

自分しか知らない業務、自分しか持っていない顧客関係──これを洗い出すのが属人化マップです。育休前の3ヶ月間でマニュアル化と引き継ぎを進める計画を立てましょう。法人営業10年の経験から言うと、これは育休関係なく価値がある作業です。実際、僕の育休中にチーム内のナレッジ共有が進み、復帰後に「むしろ良かった」と言われたこともありました。

4. 妻と「育休中の役割分担」を事前に話し合う

育休を取るだけでは意味がありません。「育休中、自分は何を担うのか」を妻と具体的に話し合っておかないと、家にいるのに戦力にならない"お客様状態"になります。僕の場合は、朝6時起床で子の朝食と保育園送りは自分が担当、夜の入浴と寝かしつけも自分──というベースラインを育休前に決めていました。

5. 「取らなかった場合の後悔」を言語化する

制度があるのに使わなかった後悔は、出世が遅れた後悔より長く残ります。男性育休の最大の壁は、周囲ではなく自分の中の劣等感や不安。僕は「5年後に振り返ったとき、この選択を後悔するか?」と自問しました。答えはNOでした。この自問が、上司に切り出す最後の背中押しになりました。

2025〜2026年の法改正で変わった3つの追い風

僕が育休を取ったときと比べて、今はかなり追い風が吹いています。

追い風①:出生後休業支援給付金で手取り10割相当

2025年4月施行。両親ともに14日以上の育休を取ると、最大28日間、既存の育児休業給付金(67%)に13%上乗せされ、社会保険料免除と合わせて実質手取り10割相当になります。ただし、休業前賃金が月47万円以上の場合は上限により10割にならないケースがあるので注意してください。

追い風②:取得率の公表義務が中堅企業にも拡大

2025年4月から、従業員300人超1,000人以下の企業にも男性育休取得率の公表が義務化されました。数字を公表しなければならない以上、企業側も「取りやすい環境づくり」に本腰を入れざるを得ません。

追い風③:個別の意向聴取・配慮の義務化

2025年10月施行。従業員が妊娠・出産を申し出た際、企業は育休制度の個別周知と取得の意向確認を行う義務があります。つまり、あなたが「妻が妊娠しました」と報告した時点で、会社側から育休について説明してもらえる仕組みです。ただし、この義務を知らない管理職もまだ多い。「法律でこうなっていますよね」と言えるだけで交渉力は大きく変わります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 育休を取りたいと伝えたら、上司に嫌な顔をされました。どうすれば?

育児休業の申出を理由とする不利益取扱いは法律で禁止されています(育児介護休業法第10条)。もし明確に拒否された場合は、人事部門に相談するか、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談できます。まずは「取得する意思は変わらない」と冷静に伝えましょう。

Q2. 育休中、副業やスキルアップの勉強はしてもいい?

法律上、育休中の副業は禁止されていませんが、就業日数が月10日を超えると育児休業給付金が支給停止になる場合があります。勤務先の就業規則も確認してください。スキルアップの勉強は自由ですが、育休の目的は育児参加です。まずは子どもと向き合うことを最優先にしましょう。

Q3. 産後パパ育休と通常の育休、どちらを取るべき?

両方取るのがおすすめです。産後パパ育休(出生後8週間以内に最大4週間)で出産直後をサポートし、その後に通常の育休を取る「分割取得」が可能です。2025年4月の出生後休業支援給付金は、この産後パパ育休期間が対象になるため、手取り10割相当で最も経済的メリットが大きい期間です。

Q4. 取得期間はどのくらいが「ちょうどいい」?

正解はありませんが、1ヶ月未満だと「制度は使ったけど実質何も変わらなかった」という声が多いのが現実。2024年度調査でも取得者の約6割が1ヶ月未満にとどまっています。個人的には最低3ヶ月あると生活リズムが掴め、夫婦の役割分担も安定します。会社や家計と相談しながら、「1ヶ月以上」をひとつの目安にしてみてください。

Q5. 育休を取ったら昇進に影響しますか?

法律上、育休取得を理由とする不利益な取扱い(降格、配転、昇進差別)は禁止されています。ただし現実には、「機会の減少」という形で影響が出るケースもあります。僕は復職後に1on1で「やりたい案件」を毎月手を挙げ続けることで、キャリア機会を自分で取りに行きました。待っていても機会は来ません。制約を明示しつつ自分から動くことが大切です。

まとめ

男性育休の取得率40.5%──でも裏を返せば、まだ6割近くのパパが取っていないということです。「取りたいけど言い出せない」のは、あなただけじゃありません。

大事なのは、「取りたい」を「取ります」に変える準備。就業規則を読む、給付金を調べる、業務引き継ぎの案を作る、妻と話す、そして自分の気持ちを言語化する。この5つをやっておけば、上司への切り出しは「相談」ではなく「報告」になります。

制度を使うことに謝る必要はありません。朝6時に起きて子どもの朝食を作り、保育園に送り、仕事に向かう──そんな毎日の始まりは、育休で子どもとの関わり方を学んだからこそ作れたもの。いま迷っているパパへ。その一歩を踏み出すための準備を、今日から始めてみてください。

参考文献