男性の育休取得率は2024年度に40.5%まで伸びました。制度としては整いつつある。でも、いざ自分が取るとなると最初に立ちはだかるのが「上司にどう切り出すか」という壁です。

パーソル総合研究所の調査では、育休を取得しなかった男性の理由として「職場に迷惑をかけたくない」(37.2%)、「職場が男性の育休取得を認めない雰囲気」(32.9%)が上位に並んでいます。制度があっても、言い出せない。

上司にどう切り出したかなんですけど、僕の場合は法人営業10年目、担当案件も多い中での6ヶ月育休でした。「迷惑をかける」「キャリアに傷がつく」──正直、両方怖かったです。

ただ、結論から言えば、「相談」ではなく「報告+提案」のフォーマットで切り出したことで、上司から前向きな反応をもらえました。この記事では、その具体的な3ステップをお伝えします。

なぜ「相談」ではなく「報告+提案」なのか

多くの人が上司に育休を伝えるとき、「育休を取りたいんですが…」と"お伺い"の形で切り出します。気持ちはよくわかります。でもこの切り出し方には2つの問題があります。

  • 語尾を濁すと上司が判断しにくい:「取りたい」なのか「取る」のかが曖昧で、上司は「止めるべきか、応援すべきか」の判断に迷う
  • 上司の不安が先に立つ:業務をどう回すかの見通しがない状態で「相談」されると、上司は「困る」が先に来る

育児休業は労働者の権利です。取得に許可は不要です。だからこそ、意思を明確にしたうえで、上司が「調整しやすい情報」をセットで渡すのが、結果的にお互いにとって最もスムーズな形になります。

ステップ1:引き継ぎのたたき台をA4一枚にまとめる

上司に切り出す前に、まずA4一枚の引き継ぎたたき台を作ります。完璧な計画である必要はありません。「この人は業務への影響を考えている」と伝わるレベルで十分です。

僕が実際に作ったのは、こんな内容でした。

  • 担当案件一覧:案件名・進捗状況・顧客の温度感を一覧に
  • 引き継ぎ先候補:「この案件はAさんが過去に関わったので引き継ぎやすい」など、根拠付きで記載
  • 引き継ぎスケジュール:育休開始の2ヶ月前から段階的に移行するタイムライン
  • 復帰後の働き方:時短勤務で復帰予定、具体的な勤務時間のイメージ

ポイントは、上司がこの紙を持って自分の上司に説明できる粒度にすること。上司だって、部下の育休を上に報告するときに材料が必要です。その材料をこちらから渡すわけです。

ステップ2:1on1で「意思+配慮+期限」の3点セットで伝える

たたき台を持って、1on1の場で切り出します。僕が実際に使ったフレーズはこうです。

「来年◯月に第一子が生まれます。育休を6ヶ月取得します。引き継ぎのたたき台を作ってきたので、見ていただけますか」

シンプルですが、ここには3つの要素が入っています。

  1. 意思:「取得します」と言い切る。「取りたいんですが…」ではない
  2. 配慮:引き継ぎたたき台という具体的な配慮を示す
  3. 期限:「来年◯月」と時期を明確にする

実際に育休取った身として言うと、この3点セットで伝えたとき、上司の反応は明らかに変わりました。引き継ぎ計画を見た時点で安心したようで、「ここはBさんのほうがいいかも」と建設的な議論が始まったのです。

語尾を濁さないこと。これが最も大事です。育休は権利であり、使うことに許可は要りません。ただし、意思表示と業務への配慮はセットで行う。この両立が「報告+提案」の核心です。

ステップ3:復帰後の働き方ビジョンも先に提示する

育休の話をすると、上司は必ず「で、戻ってきたらどうするの?」を考えます。この問いに先回りして答えておくと、上司の不安はさらに下がります。

僕の場合、以下を伝えました。

  • 時短勤務(6時間/日)で復帰する予定であること
  • 朝は保育園の送りがあるため、9時出社になる可能性
  • 17時以降のMTGには参加できないという制約

制約を先に明示することは「面倒な人」と思われるリスクではなく、上司がスケジュールを組みやすくなるメリットです。曖昧にして後から「実は無理です」と言うほうが、チーム全体に迷惑がかかります。

切り出すタイミングはいつがベストか

法律上、育児休業の申し出は原則1ヶ月前まで(産後パパ育休は2週間前まで)ですが、これはあくまで最低ラインです。

おすすめのタイミングは出産予定日の4〜5ヶ月前。理由は3つです。

  1. 引き継ぎに十分な時間が取れる:2ヶ月前から段階的に引き継ぎを始められる
  2. 人事異動のタイミングに間に合う:上司が後任や代替要員を検討する余裕が生まれる
  3. 妊娠中期で体調が安定しやすい:万が一のリスクも考慮しつつ、具体的な時期を伝えられる

僕は妻の妊娠5ヶ月(安定期に入った頃)に上司に伝えました。早すぎず遅すぎず、引き継ぎ計画を具体的に立てられるタイミングでした。

2025年法改正で企業側も変わりつつある

2025年4月の育児・介護休業法改正で、従業員300人超の企業にも男性育休取得率の公表義務が拡大されました(従来は1,000人超のみ)。これにより、企業側も「男性社員に育休を取らせたい」インセンティブが強まっています。

つまり、上司に切り出す環境は年々整いつつある。それでも言い出せないのは、「何をどう伝えればいいか」の具体的なフォーマットがないからです。「報告+提案」のフレームと、A4一枚のたたき台。この2つを用意するだけで、切り出すハードルは大きく下がります。

上司の反応が悪かった場合の対処法

「報告+提案」で臨んでも、すべての上司が好意的とは限りません。万が一、取得を渋るような反応があった場合の対処法も整理しておきます。

  • まず人事部門に相談する:育児休業の取得は法律で保障された権利です。上司の承認は法的に不要
  • 育児・介護休業法の条文を確認する:事業主は育児休業の申し出を拒むことができません(育児・介護休業法第6条)
  • 社内の相談窓口を活用する:ハラスメント相談窓口やダイバーシティ推進室が設置されている企業も増えています
  • 都道府県労働局に相談する:外部の公的相談窓口も利用可能です

ただし、僕の経験上、引き継ぎたたき台を持参した時点で上司の不安は大幅に下がります。上司が渋る原因の多くは「業務が回らなくなる不安」であり、その不安に具体的な対策を示すことで、ほとんどのケースは前向きに進みます。

育休を「言い出す」から「設計する」へ

育休取得は、言い出すところがゴールではありません。むしろ、言い出してからが設計のスタートです。

僕自身、育休中に「会社の同期に出世で抜かれる恐怖」と向き合う夜もありました。深夜に同期のSNSで昇格報告を見て眠れなくなったこともあります。でも妻と「この育休のために何を捨てているか/何を得ているか」を書き出したとき、結論は明確でした。子と妻と過ごす時間は復元不能。短期の出世は復元可能。

育休を検討しているなら、まずA4一枚のたたき台を作るところから始めてみてください。書き出してみると、意外と「引き継ぎできる案件」と「自分しかできない案件」の仕分けが進みます。その紙が、上司への切り出しの最強の武器になります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 育休の期間はどのくらいが現実的ですか?

法律上は子どもが1歳になるまで取得可能で、保育園に入れない場合は最長2歳まで延長できます。取得期間に「正解」はありませんが、厚生労働省の調査では男性の取得期間は2週間未満が約4割。一方で、1ヶ月以上の取得者も増加傾向にあります。僕は6ヶ月取りましたが、3ヶ月目あたりで家庭のオペレーションが安定し、復職準備にも余裕を持てました。

Q2. 引き継ぎたたき台を作る時間がないのですが…

完璧な計画は不要です。まずは「担当案件一覧」と「引き継ぎ先の候補名」だけでも十分です。30分あれば書けます。たたき台があるかないかで上司の反応は劇的に変わります。

Q3. 上司ではなく先に同僚に相談したほうがいいですか?

上司より先に同僚に話すと、噂が先行してしまうリスクがあります。まずは直属の上司に「報告+提案」で伝え、その後チームへの共有タイミングを上司と相談するのがスムーズです。

Q4. 産後パパ育休と通常の育休、どちらを使うべきですか?

産後パパ育休(出生時育児休業)は子の出生後8週間以内に最大4週間取得でき、2回に分割可能です。通常の育休と組み合わせることで、出産直後と数ヶ月後の2回に分けて取得する方法もあります。家庭の状況と職場の繁忙期を踏まえて設計してください。

Q5. 育休を取ると人事評価に影響しますか?

育児・介護休業法では、育休取得を理由とする不利益取扱いは禁止されています(第10条)。ただし、育休中は評価対象期間から除外されることが多いため、昇進・昇格のタイミングにずれが生じる可能性はあります。復職後に成果を可視化する仕組みを持っておくと、評価への影響を最小化できます。

参考文献

  • 厚生労働省「令和6年度雇用均等基本調査」──男性の育児休業取得率40.5%(2024年度)
  • パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」──取得しなかった理由:職場に迷惑をかけたくない(37.2%)、職場の雰囲気(32.9%)
  • 厚生労働省「育児・介護休業法の改正について(令和7年4月1日施行)」──従業員300人超企業への男性育休取得率公表義務の拡大
  • 厚生労働省「育児・介護休業法のあらまし」──育児休業の申出・取得に関する法的根拠(第5条・第6条・第10条)