息子が年少に上がった保育園で、去年の7月に洗礼を受けた。

7月第2週だけで、保育園から3回電話が来た。手足口病、疑い、また手足口病。そのたびに「保育園から電話きた、すみません……」と職場のチャットに打ち込んで、席を立つ。そのループを繰り返すうちに、なんとなく「また橘か」という空気が漂い始めた気がした。

ここで一度立ち止まった。「すみません」を打ち続けることで、自分が「迷惑をかけている存在」という前提をチームに植え付けていないか、と。

実際に育休取った身として言うと、職場に対して謝り続けることは「この制度を使うことは迷惑」というメッセージを積み重ねているのと同じだと気づいた。だから夏前にやり方を変えた。「すみません」をやめて、「事前根回し」と「仕組み」に切り替えることにした。

なぜ夏は保育園の呼び出しが急増するのか

7〜8月は、保育園児を持つ親にとって「呼び出しラッシュシーズン」だ。原因は夏特有の感染症にある。

  • 手足口病:2026年は第26週(6月下旬)に定点あたり報告数が警報基準(5.0人)を2年ぶりに超え、7〜8月のピーク時には週あたり数万例規模の報告が続く
  • ヘルパンギーナ:同時期に流行し、口内炎で水分が取れず高熱が続くため登園停止日数が長くなりやすい
  • 咽頭結膜熱(プール熱):6月〜8月に流行し、症状消失後2日経つまで登園不可

これらは登園許可基準が緩く「医師が感染の恐れがないと認めるまで」とされているため、親の判断次第では数日の欠席になる。7〜8月の呼び出し頻度は、冬のインフルエンザシーズンと並んで年間最多クラスだ。

さらにやっかいなのは「重なる」点だ。一人が罹患すると兄弟や同じクラスの子に広がり、きょうだいがいる家庭ではダブル欠席が2週間続くこともある。

問題の本質:「すみません」は職場の誤解を積み重ねる

呼び出しのたびに「すみません」を繰り返すと、無意識に「迷惑な人」ポジションを自分で作り上げてしまう。上司やチームは制度利用への対応を求められているわけでも、嫌がっているわけでもない場合が多い。しかし「謝罪が多い=申し訳ない状況が続いている」という印象は蓄積される。

時短復職のリアルは、「制度を使う側が申し訳なさそうにしているほど、制度を使うことが特例に見える」ということだ。正しいのは逆で、フラットに「今日はお迎えに行きます、引き継ぎは〇〇にお願いしました」と伝えることで、チームが機能する状態を維持する責任がある。

Step 1:夏前に職場へ事前根回しする3ステップ

1-1. 上司への「1対1の事前通知」

上司にどう切り出したかなんですけど、自分は毎年5月末〜6月頭のタイミングで、1on1の最後に2分だけ使う。「7〜8月は手足口病やヘルパンギーナで保育園からの呼び出しが増えます。昨年は7月だけで3回ありました。急な欠席が出る前提で動けるよう、引き継ぎ先は〇〇さんに事前に話しておきます」と具体的に伝える。

ポイントは3点だ。

  • 事実の提示:感情ではなく「年間何回・時期はいつ」のデータで話す
  • 引き継ぎ先の明示:「誰がカバーするか」を先に用意しておくことで上司の不安を消す
  • 許可を求めない:「相談」ではなく「通知+提案」のフォーマットで伝える。語尾を「〜します」にするだけで会話の構造が変わる

1-2. チームへのSlack通知テンプレートを準備する

急な呼び出し時に慌てて文章を作ると「すみません」が増える。事前にテンプレートを用意しておく。

「保育園からお迎えコールがありました。本日午後は在宅または欠席します。〇〇の件は△△に引き継ぎました。夕方以降にSlackで返信します」

謝罪の言葉を入れない。「事実+引き継ぎ先+次の連絡タイミング」の3点セットだけで完結させる。これをスマホのメモに保存しておくと、慌てた状態でも3秒でコピペできる。

1-3. 引き継ぎ設計を7月前に終わらせる

急な欠席が出ても職場が回るようにするには、「自分がいなくても誰かが判断できる案件」を増やすしかない。7月前に以下を整理しておく。

  • 自分が主担当で、当日中に判断が必要な案件のリスト
  • それぞれの引き継ぎ先(事前合意が必要)
  • 急ぎの判断権をどこまで委譲しておくか

この整理をA4一枚にまとめて上司と共有しておくと、呼び出しが来た瞬間に「橘は準備してある」という前提でチームが動ける。

Step 2:夫婦の看護当番制で「どっちが休む?」を消す

電話が来るたびに「今日どっちが休む?」のLINEを交わすのは、お互いの感情コストが高い。特に繁忙期が重なっているときは、一方が相手に無言のプレッシャーをかける形になりやすい。

自分のところでは月初に「奇数週はパパ担当・偶数週はママ担当」で一次対応者を決める看護当番制を導入している。Googleカレンダーに当番週を入れておき、前週日曜に「絶対動けない日だけ交換する」ルールだ。

運用のポイントは3つ。

  • 当番週の設計:奇数週・偶数週で一次対応者を固定。当番でない週の親は「絶対動けない日」だけ申告できる権利を持つ
  • 半日シフトの活用:長引く発熱の場合は「午前パパ・午後ママ」などの半日交代で、2人とも職場への影響を最小化する
  • 月末の振り返り:Googleスプレッドシートで看護日数を記録し、月末に夫婦で確認。数字で可視化することで「私ばっかり」が事実ベースの会話に変わる

電話が鳴った瞬間にカレンダーを見るだけで対応者が決まる。毎回の判断コストがゼロになると、不思議と夫婦の会話がフラットになる。

Step 3:子の看護等休暇と有給を「感染症カレンダー」で戦略配分する

2025年改正で看護等休暇がさらに使いやすくなった

2025年4月の育児介護休業法改正で「子の看護等休暇」が大きく変わった。

  • 対象年齢の拡大:従来の「小学校就学前まで」から「小学3年生修了前まで(9歳の誕生日後最初の3月31日まで)」に拡大
  • 取得事由の拡充:学級閉鎖、入学式・卒園式への参加も対象に追加
  • 勤続要件の撤廃:入社6ヶ月未満でも取得可能に(週2日以下の労働者は除外)
  • 日数:1年度5日(子ども2人以上は10日)、半日・時間単位での取得が可能

感染症カレンダーで配分を設計する

看護等休暇と有給を「なんとなく」使っていると、冬のインフルエンザシーズンに有給が枯渇する。保育園の感染症には季節パターンがある。

時期 主な感染症 推奨する休暇
4〜6月 環境変化による体調不良、RSウイルス立ち上がり 看護等休暇を優先消化
7〜8月 手足口病・ヘルパンギーナ・プール熱(年間最多シーズン) 看護等休暇を優先消化、有給は極力温存
9〜11月 RS・胃腸炎の立ち上がり 看護等休暇の残日数を確認しつつ使い切る
12〜3月 インフルエンザ・ノロ・溶連菌(集中期) 有給を冬に温存して使う

看護等休暇が夫婦で年計10日(子ども2人以上の場合)あれば、夏の呼び出しラッシュはほぼカバーできる。半日単位での取得を活用すれば実質20回分の使い道ができる計算だ。有給は冬に厚く持っておく設計が合理的だ。

実際に変わったこと

この3ステップを導入してからは、電話が来た瞬間のストレスがまるで違う。「当番週だから自分が行く、引き継ぎ先は〇〇、テンプレ送ったら出発」という一連の動作が5分以内に完結する。職場へのメッセージも謝罪ではなく「事実の共有」になった。

上司から「今年は余裕あるね」と言われたとき、「去年は毎回バタバタしてたんで、今年は夏前に準備しました」と返したら、「そういうのでいいんだよ」と言ってもらえた。準備と仕組みがあれば、急な欠席はチームの問題ではなく「あらかじめ対処済みの事象」になる。

よくある質問(FAQ)

Q. 看護等休暇は有給ですか?
A. 法律上は「有給にしなければならない」規定はありません。無給でも法律的には問題ありませんが、2025年改正以降は有給にしている企業が増えています。自社の就業規則を人事に確認するのが確実です。勤続6ヶ月未満でも2025年4月改正から取得可能になりました。
Q. 手足口病はどのくらい休む必要がありますか?
A. 法定の登園停止期間は「医師が感染の恐れがないと認めるまで」です(学校保健安全法の第3種感染症)。多くの場合、発熱が下がり口内炎が引いて食事が取れる状態になれば2〜4日程度で登園可能になります。医師の判断を優先してください。
Q. 会社に「夏は呼び出しが多い」と伝えるのは心証が悪くなりませんか?
A. 逆です。事前に伝えることで上司は「想定内の事象」として処理できます。突発的な欠席を繰り返すよりも、「7〜8月は月に2〜3回呼び出しが来ることがあります、引き継ぎ先は準備しています」と先に言っておいたほうが、管理する側は心理的に楽です。「報告でなく相談」ではなく「報告と提案」のフォーマットで伝えることが鍵です。
Q. 夫婦の看護当番制で、どちらかの職場が「この週は絶対ダメ」な場合はどうしますか?
A. 前週日曜の「絶対動けない日申告」で対応します。前週に「〇日と〇日だけは絶対外せない」を互いに共有し、その日は当番外の親が対応するかファミサポを使う設計にしておくと、毎朝交渉するコストがゼロになります。大事なのは「全週ではなくその日だけ」の交渉に絞ることです。
Q. 子の看護等休暇と有給休暇を同じ日に使うことはできますか?
A. 同一日に両方を取得することはできません。看護等休暇は1日または半日単位で取得し、残りを有給にする(例:午前中に看護等休暇0.5日、午後に有給0.5日)という使い方は会社によって対応が異なります。就業規則と人事への確認が必要です。

参考文献

  • 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「IDWR 2026年第26号<注目すべき感染症> 手足口病・ヘルパンギーナ」(https://id-info.jihs.go.jp/
  • 厚生労働省「育児・介護休業法の改正について(2025年4月施行)」子の看護等休暇の拡大について
  • 日立ソリューションズ リシテア「子の看護等休暇とは?2025年4月法改正に伴う変更や取得条件を解説」(https://www.hitachi-solutions.co.jp/
  • kids-doctor.jp「夏に保育園で流行しやすい感染症まとめ」(https://kids-doctor.jp/